-恋慕-
うちは一族に着き、今まで暮らしてきた家に帰るとすぐにイズナに会う事ができた。
イズナはマダラと同じようにセンリの姿を見るなり驚愕して、手入れをしていたクナイを畳の上に落とした。
「ほ、本当に…?本当の本当に、センリ姉さん…?」
たしかに驚きはしたが、イズナはマダラ以上にすんなりとセンリが帰ってきたことを受け入れていた。
「イズナ、こいつは本物のセンリだ」
『イズナも大きくなったね!突然消えて…ゴメンね』
センリが座ったままのイズナに目線を合わせる。イズナはセンリのその顔をじっと見つめる。そしてそれが今まで見てきたセンリに間違いなかったと理解した。
「ね……姉さん!」
『お、わっ』
センリは可愛さの欠けらも無い声を上げて、抱きつくイズナを受け止めた。イズナの抱擁はまさに子供のときのもので、センリは笑いを零す。
「姉さんっ…!もう戻ってこないと思った…!」
イズナもセンリの存在を確認するようにギュッと抱き締めるが、マダラよりは優しかった。イズナの目はウルウルと潤んでいた。
マダラは久しぶりに見た弟の心底嬉しそうな表情に、兄としての微笑みを浮かべた。
『突然いなくなって本当にごめんね。…またここに置いてくれる?』
イズナは突然バッとセンリの肩を掴み、真剣な表情をする。
「当たり前だろ!センリ姉さんはボク達の家族なんだから!」
イズナも声変わりをしていて、小さな頃聞いたあの幼い高い声ではない。だがその仕草や表情は確かにイズナのものだった。
マダラの方は大人に近い青年になっていたが、まだ少年と言えるくらいの幼さが残っているイズナは、センリの両手を握って心底嬉しそうに笑みを浮かべた。
「また姉さんの作る美味しい料理が食べられるなんて、本当に嬉しい」
イズナは心からそう言った。センリは突然「帰ってきたのだ」と実感していた。自分よりも大きくなったイズナの手を優しく握り返す。
『よっし、分かった。明日からはものすっごい頑張って作っちゃうから!』
タジマが亡くなってからいつもマダラとイズナは別々の部屋で寝ていたそうだが、その日はセンリが渇望するので、五年ぶりに三つ布団を並べて三人で眠りについた。
「それでさ、ヒカクの奴“そんな事するのはイズナくらいだろ”って言ってきて……―――」
イズナは始終嬉しそうで布団に入ってからも今までの事をセンリに話していたのだが、センリは疲れきってすぐに寝入ってしまった。
真ん中でスヤスヤと眠るセンリの幸せそうな表情を見てイズナとマダラはまるで今までとは逆で、親心が何故か湧いていた。
「……兄さん、今度はずっと三人でいよう」
イズナがセンリの左手を握りながらマダラに言う。イズナもマダラももうセンリを失いたくなかったし、ずっと一緒にいたかった。
マダラも真剣な表情になり、頷く。
弟もセンリも、きっと守り抜いてみせると、戦乱の中、心に誓う。
マダラもイズナも本当にセンリが帰ってきてくれて嬉しかったし、安心した。
センリがいるだけで、家の中も無条件に明るくなる。センリという存在そのものが二人にとっての光だった。
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