- ナノ -

-ふたりの再会-



二人は川原の短い草丈の芝生に座り込み、しばらく並んで川に写る半月を眺めていた。


「それで……お前はこの五年間、何をしていたんだ?」


落ち着きを取り戻したマダラが隣に座るセンリを見下ろしながら聞く。


『んんとね……話すとちょっと長くなるけど…』


センリは先程柱間と扉間にそうしたように、消えてからの事をマダラに話して聞かせた。

今カルマはセンリの体の中に封じられているという状態で力が不安定なこと。
カルマは時を流れる光の化身で燃焼日があること。まだ不安定なうちは何が起こるかわからないと伝えるとマダラは少し心配そうな顔をした。


「……また突然消えるってことか?」


まるで小さな頃のマダラの甘えた時のような声にセンリは少し困ったように笑う。


『大丈夫。そうなったとしてもすぐまた戻ってくるから!マダラがちゃんと大人になるのを近くで見たいしね』

センリは膝を抱えてマダラに微笑む。変わらないその笑みにマダラは少し安心した。


『すごくかっこよくなったもんね、マダラ。私よりも身長、高くなったし』


センリはまじまじとマダラの顔をのぞき込む。長い前髪で少し隠れてはいるが、薄明かりの中でもその端麗さはよくわかる。
センリといた頃の幼さの面影はもうない。青年の、本来のセンリの年齢にかなり近付いている。
背だってセンリの頭の先がようやくマダラの肩につくくらいで、座っていてもその大きさは安易に想像出来る。


「もうお前の知ってる頃の俺じゃねーんだ。当たり前だろ」

マダラはなぜか不機嫌そうにセンリに言う。センリはそんな事どうとでもないというように余裕たっぷりにクスクスと笑う。


「…そのうちにそんな余裕カマしてられねェようになるからな……いつまでもガキ扱いするな」


センリは少し悔しそうに言うマダラが柱間や扉間と重なって見えた。


『みんな子供扱いするなって怒るんだから』


センリは楽しそうにそう言ったがマダラは鋭く眉根を寄せる。


「みんなって……どういう事だ?」


センリはマダラの声音が変わったので首を傾げる。


『さっき突然目が覚めて空から地上に堕ちたと思ったら柱間の家だったの……大丈夫、マダラのことも、うちは一族のことも何も話してないよ。私が消えてから何をしてたのか話したらすぐにこっちに来たから』


マダラを安心させるようにセンリは言うが、マダラの表情はさらに厳しくなる。


「柱間のところだと?」


マダラはセンリが消えてから最初に会ったのが柱間と扉間だということにイライラしていた。


『ほ、本当にうちは一族のことは話してないから!』


センリがマダラの怒りの表情に慌てて言う。センリはマダラが何に怒っているのか分かっているつもりだったが、全くの別の事だった。

マダラは険しい表情のままセンリの腕を強く引き寄せる。


『わっ』

センリは体制を崩しマダラに引っ張られるがままその肩に顎をぶつける。センリの体は座ったままのマダラの腕の中にすっぽり収まるくらい体の差が出来ていた。


「…なんで一番最初に俺に会いに来ないんだ」


再びセンリの背中にギュッと手を回しながら拗ねたように呟く。


『ええっ。いや、私もびっくりしたんだよ?とにかく目が覚めたと思ったら突然堕ちてて…!』


センリは無理難題を押し付けられて必死に説明する。


「……ムカつく」


マダラがボソッと呟く。
センリは訳が分からずマダラの腕の中でモゾモゾする。見た目は凛々しく成長したのにその子どものような行動にセンリは少し動揺していた。

すると突然マダラがセンリを離し、立ち上がる。


『えっ、マ、マダラ』


と思ったらセンリを立ち上がらせて膝の裏に手を回し横抱きにした。センリは突然の浮遊感に咄嗟にマダラの腕を掴む。


「…うちはに帰るぞ」


言うが早いかマダラはセンリを抱いたままサッと木に飛び移りうちは一族を目指して木々を飛び移動し始めた。


『えっ、ちょっと待ってマダラ、降ろして!う、わっ…なんで抱っこしてるのっ?重いから…−−だっ…!!』


自分で移動する時とは違う風を切る感覚にセンリはマダラにしがみつく。自分の意思で浮遊感を感じないことがこれ程までに恐いとはセンリは思わなかった。


『ちょっ、危ないっ、てば』

センリはすぐ近くにあるマダラの顔を見上げるが、マダラは下ろす気配はない。センリを抱いて器用に木々をすり抜ける。


「少し黙ってろ。舌を噛むぞ」


真っ直ぐ前を見たままマダラが言う。その言葉にセンリは素直に口を噤むとそれを見てマダラがふと笑った。


「相変わらず素直だな。………お前はそうやって俺の腕の中にいればいい」


少し満足そうにマダラが言う。胸の中から見上げる表情は、確かに自分が今まで見てきたマダラに違いなかった。それなのに今やこうして立場がまるで逆になっているのはおかしな気がした。



「昔と逆だな」


同じ事を思っていたマダラは、フッと笑った。今の今まで接してきたあのマダラとは思えず、センリは不思議な感覚だった。


『力持ちになったんだね……』

「馬鹿、当たり前だろ。今度は……――――俺の番だからな」



マダラが小さく呟いた声は、風を切る音に紛れて消えていった。センリはうちは一族の領地に帰るまで、その男らしくなった力強い体に身を任せていた。

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