-ふたりの再会-
『……あの…マダラ………ちょっといたい…』
いつまでそうしていただろうか。
マダラがかなり強く自分を抱き締めるので、センリはその痛みに絞り出すように声を出す。
「知るか……俺のこの数年間の痛みに比べたらこんなもの……」
小さな声だったが、マダラはその力を弱めるどころか更に腕に力を込める。
『…いたたたっ!……ちょ、ちょっとだけ離して…』
センリも生身の人間であり女性。その柔らかな体が軋むくらい強い力を込めるマダラの肩を叩くセンリ。
「イヤだ。離したら……またお前はいなくなる」
そんな力で抱きしめるにも関わらずなんという弱々しい声か。マダラの顔は見えなかったが、センリには理解出来た。それはセンリの知っているマダラだった。六年も共にいた。成長していようとも強がりかどうかくらいはセンリにも分かる。
センリは長く伸びたその少し硬めの髪を優しく撫でる。今までそうしていたように。
『……大丈夫。離しても消えないから、ね?』
とん、とん、と自分よりも大きくなったその背中を叩くと、マダラは懐かしい安心感に包まれた。いつでも自分を包んでくれていた温もりはちゃんと自分の目の前にある。
とんとんと心の奥にまで響くリズムをしばらく感じていたマダラは、ついにそっとその腕の力を緩め、センリの体を離した。
センリは近い距離でしっかりとその目を見た。目だけは変わらない。くっきりとした二重の切れ長の目。鋭く、力強いのにどこか憂いを含んだようなその瞳。センリが近くで見てきた眼だった。
『……大きくなったね、マダラ』
センリは自分よりもかなり高い位置になったその頬に右手を添える。複雑な表情でマダラはセンリを見下ろしていた。
「…お前が消えてから五年くらい経ってるんだ。成長して当たり前だろ」
その口調は確かにマダラのもので間違いはなかったが、完全に変声期を経て凛々しく艶のある声音へと変わっていた。
マダラはセンリの頬に筋をつくる涙に気付き、それを手で拭い、掬いあげる。その涙はあたたかく、やはりここにいるセンリは本物なのだと改めて強く実感する。
「……ずっと待ってた」
マダラの瞳が切なげに歪められる。
センリが初めて見る表情だ。いつも勝気で少し傲慢ちきなところがあったマダラは、常に生意気そうに笑っていたはずだ。そんなマダラが、今目の前でこちらまで胸が締め付けられるような、そんな顔をしている。
『うん』
センリはマダラの手に自分の手を重ねる。その手の大きさでさえ二人にはかなりの差があった。
しかしその手のあたたかさは今までセンリが感じていたものだった。
『今度はいなくならないから……またマダラの側にいてもいい?』
また、センリのその微笑みもマダラの知っているセンリそのものだった。
マダラはその笑顔に心臓の奥が締め付けられるような何かを感じた。
その苦しみを消すかのように、その存在を確かめるようにマダラは再びその体をかき抱いた。
「…今度は、お前が嫌だって言っても離さないからな」
それはマダラの心からの言葉だった。
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