- ナノ -

-ふたりの再会-



センリはただひたすら森の中を走っていた。くっきりとした半月と星々のおかげで目を凝らす必要もなく周りが見える。


『(マダラ……イズナ…)』


センリは感覚を研ぎ澄まし、うちは一族の領地を感知しながらひた走る。

センリがカルマと共に消えてから五年余りの年月が経っている事はもう分かっている。マダラとイズナが生きている事も確実。この戦乱の中不謹慎といったらそうなってしまうが、センリは早く二人の顔を見たかった。


ザッ


木の幹を蹴りあげる音だけが辺りに異様に響く。
季節にするともう冬になりかけている。チャクラを皮膚上に絶えず流していないと肌を切る風が痛いくらいだ。

ここまで十キロ近くは走っただろうか。その間に人の気配は全くない。


『(カルマはインドラの転生者って言ってたけど、マダラはインドラじゃないし、柱間もアシュラじゃない。たしかに力の種で言ったら似てるところがあるけど……チャクラの一部が取り付いてるっていう感じなのかな?だから二人には懐かしいような雰囲気を感じたんだ……)』


センリは木の上を移動しながら少し考えていた。ヒュン、と枝が近くをかすめていく。


『(インドラは……生前のハゴロモに言い残してた。忍宗をこの世界から追い出すまで戦いをやめないって…カルマが言ってたように、今の時代の戦いもそれが原因だっていうこと?……うーん、なんかひっかかる。上手く流れが誘導されてるみたいな……気のせいだといいけど…)』


センリはなにか、言葉で言い表せないような謎の不安に駆られていた。それがどこから来るものなのかは全く分からない。

だが、この世界が戦いにまみれているのはインドラとアシュラが転生したことによるものだけではないような気がした。


『(とにかく…今はこの戦国時代を終わらせないとね……あっ、光の巫女について聞くの忘れちゃってた…今度カルマに会えた時に聞こう)』


センリは強く幹を蹴る。早く、早く、その先へ。センリの足はただひたすらに前を目指していた。


『……!…』


センリのチャクラに何か反応があった。センリは足を止める。この感覚は覚えがあった。


『これ……』


センリは一度空を見上げると進行方向から約九十度方向転換し、そしてまた森の闇の中に消えて行った。


―――――――――――――

満点の空の下、肌寒い夜風が耳をすり抜け、少し痛みを感じる。川の側は更にその寒さが増すような気がした。


「………」


背中の少し上くらいまで伸びる、逆だった黒髪が冷たい夜風に揺れる。長く吐き出した吐息は真上の星空に吸い込まれるように消えて行った。



マダラはセンリが消えてから何年もこの川辺に来てはその夜空を見上げていた。黄金に輝く月を見ていると彼女の、澄んだ瞳を思い出した。

しかしいくらその月を見上げようが、本物のセンリの美しさに勝るはずもなかった。

いくら時が過ぎようが、センリの美しい姿もその声も、すべて色褪せることなく自身の記憶にあった。

この五年、一度もセンリの事を忘れたことは無かった。忘れようとしたって出来るはずもないことはマダラ自身が一番よく分かっていた。戦乱の中、センリの帰りをただひたすら待ち続けていた。



マダラは目を閉じる。


こうして静けさの中で瞼を閉じると、センリのあの鈴の鳴るような声が…自分を呼ぶ声が聞こえてくるような気がした。



『マダラ………?』



ああ、ついに幻聴が聞こえてきたか。


マダラは自分も堕ちたものだと目を閉じたまま半ば自虐的に笑う。


『マ、ダラ………』



いや、違う。

幻聴などではない。今度は嫌にハッキリと、まさに今この場にセンリがいるように、マダラの耳にそれは聞こえてきた。

マダラは目をパッと開き、その少し明るい夜闇に目を凝らす。

川の向こう岸の深い森の暗闇が目の前に広がる。


「…ウソ……だろ」


ほとんど聞こえないような小さな声。掠れたその声は夜風に攫われていく。


川を挟んだ向こう側。


いつも一緒にいた人。何度となくこの川辺に足を運び、その度にその姿を探し続けた。……それなのにそこには望んだ人は現れなかった。

もう会えないような気がしていた。だがそれなのに心のどこかではいつも願っていた。

そこには闇夜を照らす白銀の光。


見間違えるはずもない。


忘れるはずもない。


ずっと待っていた。


「センリ………」


待ち望んだ、ひとだった。

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