- ナノ -

-扉間の疑心-



『…ちょっと思ってたけど、五年見ないうちに大人っぽくなるものだね』


センリがふと思ったように柱間をじっと見て言う。

センリにとっては一瞬の出来事のように感じられるが、その間世界はちゃんと時を刻んでいる。
柱間が大きくなるのは当たり前の事だが、面影はあれど見た目は変わるのだなとセンリは実感した。


「オレはセンリといた頃とは違いもう子どもではない!大人になったオレに惚れてしまうのも時間の問題ぞ!」


柱間は少し自慢げにそう言ってハハハと笑う。扉間はそんな兄を横目で呆れたように見ている。


『ふふ、そうだね!きっとみんな柱間に惚れちゃうよ。よっ、世の中の女の人よりどりみどりですね、旦那!』


センリも楽しそうに笑うが、どうやら柱間の言いたかった事はセンリには伝わらなかったようだ。それが大人の余裕、というよりセンリには回りくどい言い方では伝わらないのだ。


「……うん…センリは本当に変わらんぞ…」


柱間が微妙な表情で言う隣で扉間は手を口元にやり笑いを押し殺していた。


「兄者をも超えるド天然とは……ククク」

『??』


なにやら扉間の様子がおかしいのでセンリは不思議そうに二人を見つめる。
扉間が口元に手を当てたことでセンリはあることに気づいた。


『ん?……扉間くん、怪我してるよ』


七分丈の袖から見えたのは何かで剃ったような傷跡。赤く細くミミズ張れのようになってしまっている。腕の内側あたりだったので気付かなかったようだ。

『さっき私が落ちた時切ったのかも……見せて』


扉間は「こんな傷大丈夫だ」と言ったが、センリは扉間に近づき右手を取り、傷を見る。


『ちょっと待ってて。今手当するから』


センリはいつも持ち歩いている腰につけているポーチから小さな救急セットを取り出す。


「別にこれくらいどうということは無い」


扉間は眉を寄せセンリに言う。柱間と違い扉間は治癒の能力はないが、このくらいの怪我なら戦場に出た時と比べればどうということはなかった。


『ダメだよ。ばい菌とか入ったらどうするの?大丈夫、あまり染みない消毒液だから』


扉間を子ども扱いしているセンリはどうやら消毒液が染みる事を嫌がっていると思ったらしい。
扉間の手をとり、消毒液を脱脂綿でつける。


「……」


扉間は意外にも抵抗せずにセンリが自分の腕の傷を処置する様子を見ていた。その手つきは慣れたもので、いつもこうしてきたのだろうということが想像できる。
その様子を見て柱間がふと思いつく。


「センリは医療忍術が使えるのだろう?」


柱間はセンリが人の傷を治せる力があるのにそれをなぜ使わないのかふと思ったのだ。


『使えるけど……』

センリは扉間の腕の傷を覆うようにキレイにテーピングをしながら、柱間をちらっと見る。


『何でもすぐ治してたら怪我することが当たり前みたいになっちゃうかもしれないでしょ?お父さんとお母さんがくれた大切な身体なんだから、大事にしないと!だからなるべく小さい傷は普通に処置する事にしてるの』


柱間は驚いたようにほう、とセンリを見る。柱間は自分が負った傷は大体すぐ治るので確かに傷を作ることが当たり前になっていたような気がした。


『よし、痛いの痛いの飛んでいけ!……はい、もう大丈夫だよ扉間くん』


センリはまるで幼子にそうするように優しく扉間の腕を撫でてにっこりする。扉間は照れたように目をそらす。


「……子どもじゃないと何度言えば…」

「扉間、諦めろ」


今度は柱間が弟を笑う番だった。結局のところセンリにとっては誰もがかわいい子どものように見えるのだ。


『そうだよ!扉間くんがしわくちゃのおじいちゃんになったらちゃんとお年寄り扱いするから大丈夫』


意味がわかったのかそうでないのか何故かセンリも楽しそうだ。


『………もっと二人と話していたいところだけど。そろそろ行かないとね』

センリは名残惜しかったが、マダラとイズナのことも気にかかっていた。


「センリ、本当に大丈夫ぞ?別に一晩ここに泊まっていっても…」


柱間が心配そうに提案したがセンリは首を横に振った。


「そうか………うちは一族の集落に行くには、道はわかるのか?」

『大丈夫!………ここからそんなに遠くなさそうだね。んー…そうだな、全力で行けば一時間かからないくらいじゃないかな』


柱間と扉間はセンリの言葉に二人して驚いた。


「お前、感知もできるのか?」


扉間が聞く。感知能力が優れている扉間でさえ、ここからうちは一族の領地など探知できない。少し目を閉じて集中しただけでそれがわかるセンリに柱間も扉間も驚愕していた。


『感知?んん…うん。でも確実に分かる範囲は半径五十キロくらいまでだよ!』


感知で半径五十キロというと相当な範囲だが、センリはその辺については詳しくない。不思議そうに柱間と扉間を見ていた。


「確かに…あの十尾を体に取り込めるだけはあるな」


扉間が珍しく感心したように言う。


『?』

当の本人は首を傾げているだけだった。


「…センリ、次会うのは戦場ぞ。そこではセンリを敵という位置で見るが…いいな?」


柱間は真剣な表情になりセンリに向き直る。センリも同じく真面目な顔で頷く。


『大丈夫。私も耐え忍ぶよ。いつかまたみんなで笑い合うためにね!………じゃ、それまで少しの間…柱間、扉間くん、またね』


センリは柱間と扉間に、そう言って窓から飛び出して夜闇に消えて行った。
センリがいなくなるとなぜか一気に当たりが暗くなった気がした。


「………なぜあんな奴がうちはにいるのか分からない」

扉間がセンリが処置してくれた右腕を見ながら呟く。その様子を見て柱間が薄く笑う。


 ・・・・・
「だからこそ、じゃないか?」


扉間は兄の言葉の意味がわからずその横顔を見つめていた。

柱間はこの時胸に強く誓い、刻んだ。目的の為に耐え忍ぶ決意を。


センリの残した優しい光は、夜の闇の中でも強く輝いて見えた。その灯りを頼りにしていけば、どんなに暗い夜道も歩いて行ける気がした。
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