- ナノ -

-扉間の疑心-



「…ひとつ聞くが…お前はうちは一族には感謝の念を抱いている。それにマダラとイズナとは姉弟のような関係だ。しかしその一族は我ら千手に殆ど殺された。なぜこちらに恨みつらみがないと…兄者に協力すると言える?」


そう言ったのは扉間だ。険しい表情をしているがそれは扉間の純粋な疑問だった。現にうちは一族も千手一族もお互い仇の一族として、その無念を晴らすために戦っている節がある。

なぜセンリがそうでないと言えるのかが扉間には分からなかった。感情を押し殺せばそれは可能になる。しかし目の前のはセンリは押し殺すどころか感情に素直に従っているという感じがしたのだ。

センリはその言葉に少し苦笑いを浮かべた。


『うーん………千手一族は愛の千手って言われてるんでしょう?うちはの人たちだってそれは同じで…でも、大きな愛はもっと大きな憎悪になる事もある。この戦だってつもりにつもった愛と憎悪があるから終わらないんでしょう?

でも、だったらどこかでそれを断ち切らなきゃいけない。私は、憎しみも全部……みんなの心を、ちゃんと受け止めたい。綺麗事でもいいの。因縁を断ち切るには、許す事が必要だと思うから……。愛した分、憎んだ分、許すのってすごく難しいと思うんだ。でも、それが出来れば、きっともっと大きな何かに繋がると思う』


曇りのない瞳が優しく細められる。扉間には、そんな事を言うセンリが理解出来なかった。百年もの間生きているなら自分など比にならないくらいたくさんの辛い事も経験しただろう。それなのになぜどんな人にも愛を…悲しみにも愛情を返す事の出来るセンリが不思議でならなかったのだ。

もちろん扉間も戦いは望んでいる訳では無い。しかし実際は弟や家族の死を、憎しみと言う感情を殺しているだけだ。


「……マダラやイズナを殺されたとしても、それが言えるのか」


柱間は扉間を制するように見るが、扉間はやはり引かなかった。しかしセンリも同じように、その表情を曇らせることは無かった。


『大切な人がいなくなるのは悲しいよ。私は死なないから、親しい人達が死んでいくのも見てきたし、これからもそれは避けては通れない。………でも、みんないつもここにいる』


そう言ってセンリは自分の左胸を指す。その表情はやはり笑顔だった。


『目を閉じて思い返すとね、みんなといた時の思い出も、言葉も、笑顔も、ぜんぶここにあるの。私が忘れない限り、ずっとある。もちろん悲しい時もあるけど……でも大丈夫だよ。憎しみだけに心を預ける事は絶対にない。それに…マダラは強いって、扉間くんなら知ってるでしょ?ちょっとやそっとじゃあ、死ななそうだしね』


センリはそう言っていたずらっ子のように笑った。

柱間はセンリといると心が洗われるようだった。戦乱の世だ、ほとんどの者の心は荒んでいる。しかしセンリの笑顔を見ると、その声を、言葉を聞くと、どうしてか心があたたかくなっていく。

なぜあのマダラが、いなくなってもなおセンリを大事にするのか分かった気がした。


『扉間くんは色んなことに疑問があるんだねえ』


なかば年寄りのようにセンリが感心して言う。


「お前のような人間にはまだ出会った事がないから考えている事が推測出来ないだけだ」


扉間は相変わらず、眉を少ししかめた顔でセンリを見る。


『ええ…そんな事言ったって、扉間くんまだ十何年しか生きてないんだから、これからもっともっと色んな人に出会うよきっと。だから大丈夫だよ』

「…子供扱いするな」


なぜか扉間は気に入らなそうだったが、センリにとってはそれぞれが可愛い子どものような存在に感じる。


「案ずるな扉間。センリの前ではどんな人間でも子どもになろうぞ!」


何だか不機嫌そうな弟を見て、何が面白いのか柱間は豪快に笑った。


「…してセンリ。もうかなり夜も更けてしまったが夜のうちにうちは一族に帰るのか?」

柱間が心配そうに言う。センリが来た時にはもう夕日が沈むくらいだったが今はもう外は完全に夜だ。


『うん。早くマダラとイズナに会いたいからね』


センリは少し窓の外を見たあと柱間に向かって本当に嬉しそうな笑みを見せる。

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