-扉間の疑心-
『んん……何にしろ今は信じなくてもいいよ。私は私のやりたいようにやるだけ』
扉間の反応を気にすることもなくセンリが言う。柱間はセンリが変わらないことが純粋に嬉しかった。
『それで……今度は柱間が教えて?この五年間のこと』
センリが真面目な表情になり、柱間もそれに応える。
「分かった。話そうぞ…」
センリが消えていたという約五年の間のことを柱間は語った。
柱間は十八になり、それと同時に一族の長となった。その理由は明確。父であり、長であった千手仏間が戦死したからだ。そしてその相討ちの相手はうちはの長、タジマ。二人は戦い、そして同時に死んだのだ。それがつい数ヶ月前の話だという。
『じゃあうちは一族の長は…』
「そう。マダラだ」
千手の長は柱間に、それとほぼ同時にうちはの長はマダラに。どこまでも偶然が付きまとう。
そしてあの決別の後。
言葉通り、マダラは敵として戦場で柱間と戦い続けている。あの時語った夢など、とうに忘れてしまったように。
それを話す柱間は少し辛そうだった。
かつての友と対峙しなければならない辛さは、センリにも痛いほど分かる。しかもそれがもう五年も続いてきたのだ。柱間が心を痛めていないわけがない。
『それじゃ…やっぱりまだ戦は終わってないんだね』
センリが柱間に聞くと柱間は頷く。
「センリ、お前はオレ達を信じてくれたってのに……すまない」
柱間は頭を垂れ、本当に申し訳なさそうだった。扉間は何も言わない。
『柱間』
センリが柱間の肩に手を置き、顔を覗き込む。柱間がその顔を見るとセンリは笑っていた。
『何言ってるの?私はまだ諦めないよ。この先も、私がそれを諦めることはない』
柱間は驚いたように目を見開きセンリの笑顔を凝視した。
『大丈夫、絶対にこの時代を終らせよう!柱間だって言ってたでしょ?未来を生きる子どもたちが、殺し合わない場所をつくるって』
その言葉に半ば諦めかけていた柱間の心に希望が湧いてくる。枯れかけていた希望がセンリの言葉とともにゆっくりと湧き上がってくる。
『あなたたちは“忍”なんでしょう?柱間だって未来のために、夢のために、耐え忍んで努力してるじゃない。違う?』
「オレは…忍とは“忍び耐える者の事”だと思っている。センリの言う通り、未来のために耐え忍ぶ事が出来る者…それが忍という存在なのだと、そう思っている」
柱間の目は真剣だった。幼い頃に「里を作りたい」と話した時の瞳そのものだった。センリは小さく頷き、満足そうな顔をした。
『その考え、とっても素敵だと思う。そう…諦めてしまえば、来るはずの未来も見ることができない。私も、どんな事があろうと、いつかくる未来の平和のために、耐え忍ぶ努力をするよ。絶対諦めない。大丈夫!誰が何と言おうと…私は、柱間の描いた夢を諦めないから!』
センリの言葉は本当に不思議だった。
何の違和感もなく、心にストン、と落ちてくるのだ。センリが大丈夫だと言えば本当に何でもできる気がした。
『無駄に百年生きてきたわけじゃないんだからね!』
センリがにっこりする。久しぶりに見た、柱間の記憶に残る、人を安心させるセンリの笑顔だった。変わることのないその笑みは柱間の心に光を灯らせた。
「…お前、馬鹿だな」
半ば呆れるように言ったのは扉間だ。しかしその目にはもう殺気は篭っていなかった。
「お前のような奴は初めて見た」
それは扉間がセンリを認めた証だった。
『ええっ、バカって!百年も生きてるんだからね、お年寄りは大事にしないと!』
センリが真剣にそう言うので柱間はつい笑いを堪えられなかった。
「中身も外見も全く変わらないような奴は年寄りとは言わない」
扉間が鋭く言う。センリは大げさに眉を下げた。
『……扉間くんてば、屁理屈間』
センリが口を曲げてそう言うと扉間は「なに?」と反応するが、柱間は一人笑っている。
「ハッハッハ!センリは本当に面白いな!」
扉間の表情は怒ってはいたが、内心そんなに嫌ではなかった。
センリといると安心する。
そう言っていた柱間の気持ちが、何となく分かってしまうのは少し癪だった。
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