-扉間の疑心-
センリは初めてマダラ以外の人間に、この世界に来てからの自分の身の上話を話して聞かせた。
カルマに導かれ異世界からここに来たこと。カルマとは心身共に一緒にいたこと。不死の体になって成長しないこと。前の時代に八十年ほど過ごし、そして何かの呪いの術をかけられカルマとバラバラになり、そして気付いたらこの時代にいたこと。
その時センリを発見したのが幼いマダラだったこと。そしてそのままうちは一族に置いてもらったこと。
ハゴロモやインドラ、アシュラについては話さない方がいいと考え、それ以外のこれまでのことを話して聞かせた。
それからうちは一族の内部についてはもちろん一切話さなかった。
全て話終えるとセンリは大きく息を吐く。柱間と扉間は静かに話を聞いてくれていた。
「…信じられん」
終わった後、一息置いて扉間が言う。確かに不死だとか時空を超えただとか、まさに現実的ではない。
『うん…まあ、そうだよね。でもこれは本当の話なんだ』
センリは困ったように苦笑した。それまで何か考えているように見えた柱間が口を開く。
「オレは、センリの話を信じようぞ」
柱間は生真面目にそう言ったが、扉間は腑に落ちないようだった。
「だが、兄者…」
「センリには何か…この世界のものではない何かを感じる。それはセンリの強い力だけじゃねェ……センリがいれば何でも出来るような…何かわからないけど、そんな気持ちになる。特別な存在のような気がするんだ。違う世界、とやらから来た事も、オレは信じるぞ」
柱間の表情は真剣そのものだった。
「扉間、お前もすぐに分かることになろうぞ」
人智を超えたセンリの話でも、柱間は信じてくれた。しかし扉間は納得しなかった。
「しかし、そうやって人の心に漬け込んで、こちらの情報を得ようとしているかもしれない。演技かもしれないだろう」
扉間はセンリを睨みつける。しかしセンリにも分かっていた。扉間のそれは一族の為に現実的に考え、冷静に物事を見ようとする証だと。
『扉間くんは、すごく冷静に物事を考えることが出来るんだね』
センリはそんな事どうでも無いというふうにただ扉間を褒めた。ただ心からそう思った。
「…話を逸らすな!」
扉間は疑われる事などどうとでもないように振る舞うセンリが気に入らないようだった。
「扉間。お前が焦るわけも分かるぞ。センリは他の人間とは違う。根本的にな」
なぜか柱間がふ、と笑いながら言う。扉間はそれがますます気に入らない。
「……こちらはお前を今捕らえて監禁して尋問することだって出来る。ここは千手の領地だ。明らかにお前は劣勢」
扉間は普通の人間なら戦くであろう程の殺気を放っている。
『扉間くん、あなたはそんな事しない』
センリは冷静沈着そのもので、平然としている。一心の乱れもない。
「…どうしてそう言い切れる」
扉間の目が更に鋭くなる。目の前にいるのは華奢な女のはずなのに、なぜか貫禄さえも感じた。
『どうしてって………私がそう思ってるから』
センリはキッパリと、何の迷いもなく言い放った。扉間は何も言わずじっとセンリを見る。ふざけている様にも見えるが、薄暗闇に光る金色の瞳は真剣な眼差しだった。
『?』
突然黙り込む扉間にセンリが首を傾げる。
『なに?どうしたの?』
柱間も弟を見る。無表情だ。
「…扉間、もう分かっているんだろう?」
柱間が少し笑いながら扉間に問う。
兄は分かっていた。扉間は本当はセンリを疑っていないことを。そしていざ戦うとなったとしても、センリには勝てないということを。
「……やってられない」
扉間はそう言って深くため息をついた。
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