-呪いの謎と、兄弟喧嘩-
「御主もだんだんと時代に馴染んできておるようだしな……ただしセンリ、あまり急くな。ハゴロモの時代とは違う。それはもう分かったであろう。急ぎ過ぎれば色々なものを見失う。しかし目先のものだけ見てもそれは掴めぬ」
センリはいつものように微笑む。
『分かった。大丈夫。他のものを壊し過ぎないように…私は自分の心に正直に、真っ直ぐに生きる。私は、一度死んだ人間。過去を振り返る事はしても、後戻りは絶対しない。流れに身を任せる事も時には必要ってことでしょう?大丈夫。もう百年も生きたよ。無駄に過ごしてきたわけじゃない』
センリの心は折れなかった。カルマも分かっていたが、改めてその強靭な心に尊敬の念を抱く。カルマも何千年と生き、世界の矛盾、悲惨さ、どうにもならない事をたくさん見てきた。だからこそセンリの真っ直ぐさは恐れ敬うものがあった。
「…我は御主と共にあると決めた。これからも」
センリは薄く笑みを浮かべるカルマに笑みを返す。そして突然思い付いたようにあっ、と声を洩らす。
『そういえば……カルマ。私、“前の記憶”を少し思い出したの』
カルマはセンリをじっと見つめた。
『私には弟がいたんだね。それで弟の世話をしてたから、この世界でも何となく体が覚えててハゴロモ達を育てることができた。それで…私と弟の両親は、弟を産んだ時に死んでしまった………カルマは私をずっと見てたって言ってたよね?その事も知ってるの?』
センリは純粋に質問をしていたが、カルマは少し表情が曇る。
「ああ……知っている」
カルマが小さく言った。
『私の両親は、殺されてしまったの?』
カルマは金色の瞳を見開き、センリを見返した。いつも表情の変わらないカルマの、とても珍しい顔だと思った。純粋に驚いているように見える。
「そこまで…思い出したのか?」
カルマの声は囁きに近かったが、センリはハッキリと聞き取っていた。
『マダラに出会うまで…つまり、私が時空をさ迷っていた時、かな?とても長い夢を見ていたの。モヤがかかったみたいに姿は見えないんだけど、弟の声だけが遠くから聞こえてきて…。それで「父さんと母さんは殺されたんだ」って』
カルマはセンリを見つめたまま黙り込み、センリはそれを肯定ととる。僅かに悲しみの様な色が見えるカルマを前に、センリは柔らかく微笑んだ。
「黙っていて、すまぬ。だが……御主には、あまり思い出してほしくなかった」
カルマの表情を見る限り、どうやら自分の半生はあまりいいものではなかったのかもしれない。そうセンリは考えたが、カルマを安心させるように笑みを作った。
『謝らないで!カルマのせいじゃないよ。今は今だもんね!私はこの世界で頑張って生きる。ここに来たのは、偶然じゃないような気がするから』
センリは一人納得し朗らかにそう言った。
『それに、どんな辛い事があったとしても、私は私だもん。きっと苦しい事も、今の私を作ってくれる大事な過去だ。大丈夫、これからも私は真っ直ぐに生きるよ』
センリの瞳は、本当に真っ直ぐだ。昔から変わらない、どうしようもなく澄んだ瞳だった。
「御主は…本当に……――――――」
なにか言おうとしてカルマは踏みとどまり、ふ、と笑う。
『?』
「さて……ではこれからの事を話そう」
カルマは真剣な表情に戻り、センリにきちんと向き直る。
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