-呪いの謎と、兄弟喧嘩-
『………んん………』
センリはズキズキと痛む頭を押さえ、一体何事かと辺りを見回す。
そこはただ白く、広い空間。センリが何度か来たことのある場所だ。
『ここ……カルマの…』
センリは倒れた体をなんとか起き上がらせる。ここはカルマの作り出せる異空間だ。
「よかった。目覚めたか」
辺りに反響するカルマの声。センリの少し前にカルマの人間化した姿。白銀の髪の少年だ。
『カルマ……一体何が…』
センリはまだ少しだるいような体に力を入れ、なんとか立ち上がる。
「またカグヤにつけられた呪印が発動し、御主と我を引き裂こうとしていた。だからやむを得ず異空間に飛んだ…やはり我の考え通り、この異空間ではその呪いは意味をなさんようだ」
センリは首元の服を捲り、そこを見る。普段鎖骨の下辺りにあるはずの呪印が無い。
『カルマ……私色々と聞きたいことが』
カルマはセンリの言葉を手で制する。
「分かっておる。御主と我が引き裂かれてしまったあの時からの事を話そう」
それはずっとセンリがカルマに聞きたかったことだ。もちろんカルマは分かっていた。そしてその場に座り込みぽつりぽつりと話し始めた。センリも腰を下ろす。
「ハゴロモが生を真っ当したあの日、我と御主はカグヤの呪いによって別々に引き裂かれてしまった。一体どういった術なのか我にも分からん……
その後すぐにセンリの姿だけがその場から消えてしまったのだ。文字通り跡形もなく、だ。そして我のほうは力の殆どを突如として封印された。実体化するのも難しかった……。アシュラと他の人々は御主を必死に探した。しかし……ついにアシュラが死ぬその時まで御主は現れなかった。
我は光となって御主を探し続けた。何年も。何百年も。時々…本当に稀にではあるが、鳳凰の姿にはなることができた。その時は他の尾獣たちにもその訳を話し、協力してもらっていた。だがそれは徐々に難しくなっていった」
『…どういうこと?』
カルマが神妙な面持ちで一息つく。
「御主も分かっておるだろうが……ハゴロモと御主が人々に教えた忍宗が、上手く伝わらなかったのだ…。そのうちに人々はチャクラを絆としてではなく、個々の力の源として利用するようになった。
その力を操る者達は忍と呼ばれるようになった。正直なところは、この過程については我はそこまで問題だとは思わぬ。ただ、人々はその力を闘いの源とし、争い合い始めた。そして……尾獣達はその強大過ぎる力を持つことから人々は兵器として扱い始めたのだ」
カルマが苦虫を噛み潰したような表情をし、センリは唖然とする。
『うそ、まさか……』
「信じたくない気持ちはわかる。が…我はこの目で見て来た…。だが、尾獣たちも素直に従う訳がなかった。自分達を道具として、兵器として利用しようとする人間たちを敵視し、拒んだ。人間たちは人智を超えたその力をどうにかして戦う道具として利用しようとした。
尾獣達はハゴロモと御主が作ったあの故郷に引きこもり、その力を利用しようと近づく人間は容赦なく殺していった。そして人間達は更に尾獣達を危険視する……終わらない悪循環だ」
カルマは苦々しげに話す。
センリは心が痛んだ。自分達が育て、そしていつか人間達と絆で結ばれることを願い、世に放った尾獣達がそんな事になるなんて。センリは拳を握り締める。
「…話を戻す。
人間たちがチャクラを己の力として使い始めると、また戦いが起こるようになった。それは小さなものからだんだんと一族単位のものに広がっていった。既に聞いたかもしれんが、国同士が忍を雇い争い合い始めたのだ。
我は可能な限り人間たちに警告した。このままではいずれ忍という存在が消滅する事になるぞ、と…。しかし、愚かな人間たちは争いをやめようとはしなかった。
そしてその中心とでも言うか……その争いの元凶は――ハゴロモの息子…インドラとアシュラだ」
『どういうこと?』
思いもよらない言葉にセンリが困惑する。
「二人が言った言葉を覚えておるか?“我らの魂は何度でも蘇り、闘うだろう”と……。我には六道の力はないので断定する事はできぬが…この予測はほぼ確定でよいのだと考える」
『どこか、二人の心を感じたんだね?』
カルマはゆっくりと頷く。確たる証拠がある訳ではないが、センリにはカルマの言いたい事がほぼ分かっていた。
「その通りだ。インドラとアシュラは自ら言い残したように、何度も転生を繰り返したと推測している。そして戦い続けておるのだろう。真に必要なのは愛か力か………その答えを求めて」
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