-マダラと柱間、うちはと千手-
マダラが投げた水切り石は仏間の短剣へ、柱間の石はタジマが放ったクナイへとそれぞれ命中した。二人は自分たちの弟を守ったのだ。
二人の水切り石と武器が川の中へと沈んで行く。
『…!』
そしてマダラはイズナの前へ、柱間は扉間の前へ、姿を現す。
「弟を…傷つけようとする奴は誰であろうと許せねェ!」
マダラが叫ぶ。
たとえ友だちであろうと自分の家族に手を出すのは許さない。頑ななマダラの心だった。
「……柱間。俺達の言ってたバカみてーな絵空事にはしょせん………届かねーのかもな」
二人の水切り石は川の底に沈んでいた。それは二人の決別を表していた。
『マダラ……』
「マダラ……お前…!?」
センリも柱間も、夢を棄てようとするマダラを何故、という同じような表情で見る。
「少しの間だったが、楽しかったぜ…柱間」
マダラのその言葉は柱間を突き放した。
センリは先日のマダラの言葉を思い出していた。マダラは本当はこんな状況望んでいない。柱間を友達として認めていた。本当は失いたくなんてないはず…。
千手はうちはの出方を見ている。
「…センリ、ここで戦うと言ったらどうする」
タジマが横目でセンリを見る。その眼は写輪眼。本当に戦う気だ。
『…私がさせない。それに柱間はマダラより強いよ』
センリの表情に笑みはなかったがその口調はいつものものだ。
「兄さんより強い子供が?」
センリの言葉にイズナが驚く。
「……引くぞ」
センリをしばらく睨むように見ていたタジマだったが、ついに折れる。
「……センリ、帰るぞ………じゃあな、柱間」
マダラが柱間達に背を向ける。しかし柱間はまだ諦めたくなかった。
「マダラ、お前…!ホントは諦めちゃいねーよな…!?お前はやっとオレと同じ…… 」
マダラが足を止める。
「お前は千手……出来れば違って欲しかった。オレ達一族はみんな千手に殺された…」
そして柱間の兄弟はうちは一族に。
「…だからさ、お互い腑は見せる必要もねーだろ。次からは戦場で会うことになるだろうぜ……千手柱間………」
マダラは柱間を振り返る。
・・・
「俺は、うちはマダラだ」
昼間だというのに血のように赤く光を放つマダラの瞳を見てセンリは僅かに目を開く。
「見て父様!兄さんの目…!」
イズナがそれを見て嬉しそうに兄を見て言う。
「フフ……千手の情報は入らなかったが、代わりにいいものをこちらは手に入れたようだ…」
息子の写輪眼の開眼をタジマも嬉々として受け入れた。マダラは友達を失うことと引き換えにその眼の力を手に入れたのだ。
センリの頭にかつてのインドラの姿が浮かぶ。
『マダラ…!柱間と私と話したあなたの言葉は偽りじゃなかったはずだよ。私たちは……』
センリはまだ諦めなかった。マダラにもう一度分かってほしい。ただ切実な願いを叫ぶがマダラはその言葉を遮る。
「センリ、お前はこれまでの事を知らない。この時代の事を知らなすぎる。お前は…純粋すぎるだけだ…」
マダラの瞳は鋭い光を宿し、冷たく突き放す様な言い方にも思えたがそれがセンリにはただ悲しい声に感じた。
マダラには分かっている事もあった。
忍の修業の中にはセンリが知らない、心を殺す為の訓練もある。どこをどういうふうに、どうやって人を殺すのが一番手っ取り早いのかを学んだ事もある。他人の弱味を握るにはどうしたら良いのか。…センリは知らないだけだった。
しかしセンリにとっては急にマダラが希望を捨てたように見え、ただただ驚きを隠せない。
凍てついたその赤い瞳がセンリの中のかつての記憶を呼び起こした。
−−−−「罪には罰となる力を毅然と示さねばなりません。それが新たな罪の抑止力となります」
「写輪眼を持たぬお前にはわからん」
「世界を束ねていくのは力であり力による規律だ。いずれ私は忍宗を継ぎその理想を貫く」
「弱き者の助けなどいらない。この力を使い、力による完全なる秩序をつくる。争いのない完全なる世界だ。平和をつくれるのは力だ、センリ。俺はもう分かったんだ」−−−−
頭の中を駆け巡るようにインドラの声が木霊する。
『うっ……』
突然頭が揺さぶられる様な感覚がして、センリは頭を抑え膝をついた。
「センリ……!?」
何の前触れもなくセンリが崩れ落ちるので、マダラが駆け寄ろうとしたその時、眩い光が降り注ぎ、その場にいた全員が目を細め、なにかの攻撃かと臨戦態勢をとる。
「何だ!?」
仏間が何事かと叫ぶ。目を開けていられない程の輝く光。まるで空が光っているかのよう。その光はだんだんと強くなったかと思うと、やがて徐々に薄く消えて行く−−。
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