- ナノ -

-マダラと柱間、うちはと千手-



夏も終わりに近づき、夜の茂みの中では鈴虫がリィィィィと、淋しげとも思える鳴き声を上げていた。

皆は寝静まり、イズナも規則正しい寝息をたてながら眠っている。タジマは一族の集会でまだ帰ってこない。

センリとマダラは縁側から頭上に浮かぶ真ん丸の満月を共に見上げていた。

今日は特別大きい満月だ。月明かりだけでも夜はかなり明るく感じる。


「……なぁ、センリ」


静かな空間で、神秘的なその月を二人黙って見上げていたが、ふとマダラがセンリの名を呼ぶ。


『ん?』

センリが微笑んでマダラを見る。辺りはとても静かで鈴虫の声以外はまるで聞こえない。夏の、夜の匂いがした。


「前にさ、守る対象は力だけじゃないんだって、言ってただろ。あれってさ……どういう意味だ?」


センリは記憶を辿る。
そういえば少し前柱間といたときにそんな事を言ったような気がする。


『そのまんまの意味だよ』


そう言ってセンリは微笑む。
マダラはあれからずっと考えていたが今日までその意味が分からなかった。


「だって…センリは俺が守らなくたって、誰よりも強ェだろ。そもそも俺より強ェし」


マダラは眉を寄せる。何だか納得いかない様子のマダラを見てセンリは苦笑した。


『だからそういう意味の力だけじゃないよ』


いじけたような顔をするマダラを横目に、そう言ってセンリは話し始める。


『力が弱い者を守るって行為だけじゃない。気持ちが…心が弱った時、落ち込んだ時、そういう時にも守ってくれる人がいるって大事でしょ?

力があるだけじゃ人は守れない……私はそれを近くで見てきた……。確かに力がなければ守れないよ。でも、だからと言ってその力を求めすぎると、のめり込んで後戻りできなくなって、結果自分さえも守れなくなっていく。そういう悲しい力を私は知ってる』


センリは思い出す。平和を望んだカグヤはその力に呑まれ、自分が封印した。そして自分を守る為に強くなりたいと願ったインドラさえもセンリの前から消えた。結局力とは何のためにあるのか。センリもいつだって考えてきた。

月を見上げながら、静かに話すセンリを隣でマダラはじっと見つめていた。


『私は、大切な人を守る為に強くなりたい。その為には戦うことも必要になる時がある。それは私も分かってる。だけどその力を求めるのに…自分の、人の心までは壊したくない。私は、自分の心だけは真っ直ぐ、曲げたくない……。私の強さは、誰かを守る事のできる強さでもある。

ただ強い力があってもそこに心が無くちゃそれはただの兵器と同じ。マダラ、あなたはとても強い。戦いに出たら負け無しってことは知ってる。でもね、だからこそ私はマダラを守りたい。あなたの“心”を守りたいんだよ』


センリの輝く瞳がマダラを捉える。月の光が金色に反射して神秘的な輝きを放っていた。


『今度こそ……守りたいの』


マダラはセンリから目が離せなかった。夜風がセンリの髪をさらう。

センリには自分には知らない過去があることはマダラも知っている。それを自分には言いたくは無いという事も。だがそれが悔しくもあった。センリは自分が知らないような悲しい経験をしてきたと思うと、たまらなく悔しかった。それと同時にそれでも前を向いて生きているセンリが気高く、尊かった。


『心の傷は分け合えない、それに治りにくい……でも、心の痛みはね、半分こできるんだよ。私にも、絆創膏を貼ってあげるくらいは、できる。マダラが辛い時は、私と半分こしよう。マダラが辛いのも悲しいのもちゃんと受け止めるよ。絶対に、マダラの心を受け止めるから…』


センリはマダラの頭に手をかけ引き寄せる。
マダラの心を守りたかった。一人で道に迷ったりしないように。家族を失わないように。今度こそ側で見守る。センリはマダラを近くで見てきてずっと、そう考えていた。
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