- ナノ -

-マダラと柱間、うちはと千手-



『必殺!目潰しの術!』


縁側でぼーっとしているマダラの目をセンリは後ろから手で覆い、力を入れる。


「いたたたっ。そこは「誰だ?」とかじゃねェのかよ!」


マダラは素早く突っ込みを入れる。センリはマダラの顔を除きこみ楽しげに笑う。


戦が始まりそしてまたおさまりを何年も繰り返し、マダラは十二歳になっていた。

幼い頃の子どもっぽさがかなり消えて、最近は子供扱いされるのを嫌がるようになった。少しずつ声変わりしているし、センリと出会った頃は三十センチ以上あった身長差もあと数センチというところまで迫っていた。


この五年の間、カルマはセンリの前に現れることは無かった。とにかくセンリは、はやく戦国時代を終わらせカルマを、尾獣たちを探しに行きたかった。しかし戦争が終わる気配は未だにない。

ただ、その分うちは一族との絆は深くなり、同じようにマダラとイズナとも本当の家族のようになっていた。


『ねえねえ、今日天気いいから川に行こうよ。イズナはタジマくんに連れられて修業三昧だし』


イズナはこの所タジマと一緒に修業をしてばかりだった。しかし眉を上げてセンリを見るマダラの方はもう、修業などつけてもらう必要がないくらい強くなっていた。父親であるタジマでさえ戦いの場では頼りにする程だった。下手すればうちはで一番実力があるかもしれない。

マダラは「またか」というような顔をした後、やれやれと小さくため息をついた。今ではどちらが子どもなのか分からない。


「まったく、センリはそればっかりだな……分かったよ。一人で行かせて怒られるのは俺だからな」

マダラはのそのそと立ち上がる。


『やった!行こう行こう!二人で行った方が楽しいもんね』


センリは満面の笑みを見せて喜んだ。マダラはこの笑顔を見ると、申し出を断る事など到底出来なかった。



二人は時々あの川に行く。いつも二人で通っている澄んだ水の、あの川辺だ。そしてそこでマダラはいつも水切りをするのだ。

マダラもこの戦争をどうにか終わらせたいと思っていた。戦場に出れば一族を、味方を守る為に必死で戦う。しかしセンリにだけ開くその心は、何よりも平和を願っていた。

そこでマダラはいつも水切りで願掛けをする。向こう岸に届けばその方法がある、ということをいつも願いながら石を投げる。しかし未だにその石が向こう岸まで届いたことは無かった。


『なかなか届かないねえ』


センリはマダラの後ろに座りながらいつも穏やかにその様子を眺めていた。こうしている時センリとマダラの気持ちは落ち着いて心地よくなる。激しい戦乱の中でこの時だけはやけにゆっくり時間が流れる。


「次こそっ……」

何度目かの石をマダラが投げる。だがそれはまた向こう岸にたどり着くまでに水の中に消える。
マダラは納得いかないように口を曲げる。修業の時のように真剣な様子にセンリは後ろで笑いを洩らす。

「笑うな!次こそ向こう岸に……」

マダラが向こう岸を睨みつけ次の石を持ち照準を定める。

パシャッ。
投げられた石が水の上を飛んでいき、向こう岸にたどり着きコツ、と音を立てる。だがその石はマダラが投げたものではなかった。


『!』

マダラとセンリが同時にその石の出どころを振り返る。


「気持ち少し上に投げる感じ。コツとしては」


声の主はざっくばらんにきりそろえられたおかっぱのような黒髪をした少年だった。見たところマダラとそう変わらない年齢に見える。健康的に日焼けした肌と、一重の黒い瞳はどこか生命力に満ちていて力強さを感じた。


「そんなこと、分かってる。俺が本気出せば届くさ…!つーかてめェ誰だ?」


マダラがムッとしてその少年に食ってかかる。何度もこの川原に来ていたが、誰かと出会ったのは初めてだった。センリも突然現れた少年を不思議そうに見やる。


「ん〜………。今、この時点では水切りのライバルってとこか?オレは届いたけど」


少年はマダラの表情にも物怖じもせず少し嫌味も込めて言葉を返す。センリは不思議そうにその様子を見つめる。


「誰だって聞いてんだコラ!」

マダラが少年に近づき声を荒げる。


「名は柱間。姓は訳あって言えんぞ」


柱間という少年が案外素直に答えるのでマダラは少し面食らったようだ。


「柱間か…。よく見てろ!次いけっから!」

マダラは手に持っている石を握りしめ、川辺に向かって立つ。そして勢い良く下から石を投げる。


「(この投げ方……やっぱそうだ…手裏剣術…!)」


センリはその時一瞬柱間の顔が変わったことを見逃さなかった。だがマダラの投げた石が向こう側にたどり着く前にまた消えてしまったので三人は沈黙する。


「てめェ!俺の後ろに立ってわざと気を散らしたな!コラ!後ろに立たれっと小便が止まる繊細なタイプなんだよ俺は!!」

マダラは後ろの柱間をビシィッと指差し怒鳴る。柱間はビクッと体を震わせそして座り込んでしまった。

「ご、ごめん………」

ずうぅんと音が出そうなくらい落ち込む柱間にさすがにマダラも言い過ぎたと思ったようだ。


「いや……そこまで落ち込むこたァねーだろ……わ、悪かったよ言い訳して……」


マダラが苦笑いして謝る。

「知らなかったから……お前にそんなウザイ自覚症状があるなんて……」


「てめェいい奴かやな奴かハッキリしねェなコラ!」

「アハハハ!お前より水切りが上手いのはハッキリしてるけどね!」

「てめェで水切りしてやろーかコラァ!」


二人の漫才のような掛け合いにセンリも声を上げて笑う。

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