- ナノ -

-うちは一族と光の巫女-



次の朝、タジマが目を覚ますとすでにセンリは台所で朝ご飯の用意をしていた。


『あっ、おはようタジマくん!昨日は勝手に寝ちゃっててごめんなさい』

センリが前掛けで手を拭きながら申し訳なさそうにタジマに言う。


「いや、私も帰ってきたのは夜中でしたから……。どうやらマダラとイズナは喜んであなたを迎え入れたようですね」


タジマはセンリが家で寝ていたことについてまったく怒っていないようだった。


『とてもいい子たちだね。タダで住まわせてもらうのも申し訳ないからこれから家の事は私に任せてもらってもいい?』


タジマは戸に寄りかかり、手際よく準備をするセンリを見て少しだけ妻を思い出した。その姿を最後に見たのはもう数年も前の事だった。


「それはありがたい。ちょうど少し前に世話人が死んでしまいましてね……人手がなくて困っていたのです。あなたを戦場に出す訳にはいきませんし、お願いします」

『…戦をするの?』


振り返るセンリの表情はとても哀しそうだった。


「ここ数ヶ月戦は無かったのですがね…また近いうちに始まるでしょう」


タジマの言葉にセンリは俯く。ついこの間自分が生きていた頃は大きな戦争といえる戦いはなかった。それが長い眠りから覚めてみたら戦乱の世だということにショックを隠しきれない。


『子どもたちは知ってるの?』


センリは昨日のイズナとマダラの笑顔を思い出す。曇りの無い、年相応の無邪気な笑顔。


「もちろん。大体の子ども達は七つになると戦場に出ます。それまでは修業して力を付けるのです」


センリは目を見開く。まさか知っているどころか戦場に出ているなんて。


『子どもを戦場に出すなんて…』

センリは信じられなかった。あの七歳のマダラは戦場に出なければならないのか。まだほんの子どもなのに。


「今の時代仕方の無いことです。どこの一族も同じですからね。これからマダラも戦に行くことになるでしょう」


センリは唇を噛み締める。まさかそんな時代になっているなんて…。はやくどうにかしなければならない。センリは考えを巡らせているとイズナとマダラも起きてきたので話をやめて、四人で朝食をとる。


「センリ姉さん!今日はなにする?」

朝食のとき、イズナが楽しそうにセンリに聞く。するとタジマがそれを遮る。


「イズナ、お前は修業しなさい」

一喝され、イズナはしょんぼりと目を伏せる。それを見てセンリが微笑む。


『私が見てあげるよ。一緒に修業しよう』

途端にイズナは笑顔になり、大きく頷く。タジマが何か言いたげにセンリを見る。


『大丈夫。これでもずっと修業はしてきたんだよ。他の人にも教えてきたし。ここの人達がどんな修業の仕方をしてるかは分からないけど……剣術とか体術ならちゃんと教えられるから』


センリは安心させるようにタジマに言う。タジマも昨日見たセンリの実力なら申し分ないと考えたようだ。

「なら俺も一緒にやる」


ご飯を一粒残さず綺麗に平らげた後マダラも言う。

タジマは頭領として何かと忙しいらしくあまり修業を見れない為、実際のところセンリの申し出はかなりありがたかった。


その日は三人でずっと修業に励んだ。

体術、剣術、手裏剣術などはセンリがいた時代とあまり変わりはないようで、今までのようにセンリはイズナの修業を見た。

イズナの実力も四歳とは思えないもので、本当に小さい頃から今までも修業をしてきたのだろうということが想像出来た。しかしやはりマダラの強さは飛び抜けていた。

そのうちにうちは一族の者達が集まってきてみんなで修業した。センリの事はすでに広まっていて皆興味深そうだった。


それから逆にセンリも忍術について教えてもらった。チャクラには「性質」と呼ばれる特徴があり、基本的に火・風・雷・土・水の五種類から成り立っているということをセンリは初めて知った。ハゴロモといた頃もそれは全く知らなかったからだ。


『(だとすると……あの時水が出てたのは水遁で、火は火遁だったのか……。確かに印の組み方が似てる。インドラが作り出したものと同じだ……)』


ある程度以上のレベルの忍術は、この性質をチャクラに持たせた上で使用する術が多く存在し、「火遁」「風遁」「雷遁」「土遁」「水遁」などと呼び、これらを「五大性質変化」というらしい。

それを踏まえて言えばセンリは全ての性質の力を持っていた。これには少し驚かれた。全ての性質変化を使える忍は、少し珍しいのだという。

そして、印というものを初めて使用し、うちは一族特有の術を教えてもらった。火遁・豪火球の術という、直径が等身大くらいの火の玉を口から吹き出す術だ。もちろんセンリは使用したことがない。

印を結んだことのなかったセンリだが、数分すればコツを掴み、かなり早く結べるようになった。

巳、未、申、亥、午、寅、と豪火球の術の印を教えてもらい、その通りにやってみる。


『(火遁…豪火球の術!)』

めいっぱい空気を吸い込み、それを口から吹き出すと同時に火に変える。ゴウ、と音を立てて口から出たそれは、白い炎で、驚く程大きい。真っ直ぐに演習場の端まで飛んでいき、そして消えた。初めて術を使用したにも関わらず特大の豪火球が出せたこと、炎の色が白だと言うこと。人々は色々なことに驚き、ざわめいた。


「センリ姉さんすごい!白い豪火球なんて、初めて見た!」


イズナが興奮して駆け寄ってくる。マダラもびっくりして固まっている。自らが操る火が白い事は知っていたが、本格的な術にまで影響するとは知らなかったセンリは一瞬不思議に思ったが、喜んで駆け寄ってくるイズナを抱きとめて共にバンザイをした。


『白いのは私にもよく分かんないんだけど…。でもコツが掴めたよ!』

センリはイズナの手を取り、ランランと踊る。

以前はセンリにとって必要のなかった印だが、カルマが体の中にいないせいか、印を組む方がチャクラの流れを上手くコントロール出来た。


この事は、センリがその伝承にある光の巫女だということを一族の皆が本格的に信じ始めるきっかけになった。

[ 20/125 ]

[← ] [ →]


back