-うちは一族と光の巫女-
『何かあったのかな』
去っていくタジマたちの背中を見ながらセンリは誰に言うでもなく呟く。
「たぶん、また戦いが始まるんだ」
同じく父を見送るマダラの表情は堅い。その目は暗く、少し悲しげにも見えた。センリはそれに気づき、マダラの顔を覗き込む。
『マダラくん、だったよね。私はセンリ』
マダラは小さくなった父から視線をにこやかに笑うセンリに移す。
「知ってる」
突然現れたセンリをまだ信用していないのか少しぶっきらぼうな口調だ。
「君、なんて付けなくていい。お前、これからここに住むんだろ?」
七歳の少年にしては大人びた口調。だがそれはどこか強がっているようにも聞こえた。
『そうみたい。タジマくんの家に置いてくれるって言ってたから…ってことは一緒に暮らすことになるのかな?』
マダラはタジマの息子だと言っていた。それならもちろん家は一緒だろう。
『突然ごめんね。見ず知らずの私が一緒に暮らすことになって…私もまだここの事がよく分かってないから色々教えてくれる?マダラ』
センリが微笑む。マダラはセンリから目を逸らす。髪から少しだけ見える耳は微かに赤く色付いていた。そんな事を知りもしないセンリは、なかなか返事をしないマダラを見て嫌なのだろうかと心配になる。
「そんなに知りたいならまあ……教えてやってもいい。分からないことがあったらなんでも言え」
マダラはまだ素っ気なかったが、どうやらただ素直になれない性格なだけのようだ。意外と面倒見がいいのかもしれない。
『(うちは一族は写輪眼を持つって言ってた……あの時写輪眼を持ってたのはハゴロモとインドラ……てことは…インドラの力を第一に考える一派って………まさか、ね)』
センリが突然静かになるのでマダラは不思議そうにその姿を見る。するとまた演習場に誰かが入ってきた。
「兄さん!こんなところにいたの」
それはマダラよりも小さな男の子で、こちらに向かってあどけない、満面の笑みで走ってくる。マダラとセンリに近付くと、見知らぬセンリの姿にきょとんとして少し警戒するようにマダラの背に隠れる。
「兄さん、このひと誰?」
どうやらその子はマダラの弟のようだった。マダラはここにきてやっと表情を崩した。
『私はセンリって言うんだ。今日からこの…うちは一族にお世話になるの』
センリはマダラよりもさらに小さなその男の子と同じ目線になるように腰を下ろす。
「センリ…」
センリの笑みに警戒を解いたのかその子はマダラの背から一歩姿を出す。
「こっちは俺の弟だ。名前はイズナ」
もじもじする弟の代わりにマダラが答える。確かによく見ると目鼻立ちが少し似ている。
『イズナくんか。いくつ?』
センリが優しく問いかけるとイズナは安心したように笑みを浮かべる。
「四歳だよ」
イズナはそう言って右手を開き、親指以外を立ててセンリに見せる。四、という意味のようだ。
『そっかそっか。マダラもだけど小さいのにしっかりしてるんだね。素晴らしい!』
センリはイズナの頭を撫でる。イズナはなんだか嬉しそうだ。
「うん!兄さんはね、すごいんだよ!一族のこどもたちのなかでいっちばん強いんだ!」
イズナは目を輝かせ自慢げだ。兄のことを本当に尊敬しているようだった。
『うんうん。マダラはとっても強かったよ。きっととっても立派な忍になるね』
センリがマダラを褒めるとマダラも照れていたがそれ以上にイズナは嬉しそうだった。
「…イズナ、これからセンリは俺達と一緒に暮らす。父さんがそう決めたんだ」
マダラがイズナに説明してやるとイズナは首を傾げた。
「センリのおうちはないの?もしかして兄さんが言ってたてんにょって…センリのこと?」
天女、という言葉に苦笑いし、イズナの不思議そうな問いにセンリは少し考える。幼子に事実を話して分かってくれるのか。すると口を開いたのはマダラだった。
「センリは突然現れたこの一族の守り神みたいなもんだ。そう父さんが……みんなが言ってたから間違いねーと思う」
マダラはイズナに分かるよう話を要約し、簡単な言葉で話す。
『守り神…かどうかは私にも分からないけど、気付いたらここにいたの。だから私もここがどこだかまだ良く分からないし、たぶん家はもうないと思う。だからタジマくん…あなたのお父さんが私を自分の家に置いてくれるって言ったの』
イズナは一生懸命センリの言う事を理解しようとしていた。
「じゃあイズナたちと暮らすの?」
イズナがその瞳を大きくするのを見てセンリは深く頷く。二、三回瞼をぱちくりさせたのちイズナの顔に笑みが広がる。
「ほんとに?じゃあ母さまになるってこと?」
その言葉にセンリは簡単に肯定することは出来ずにマダラを見上げる。
「…俺達の母親はイズナが産まれた後すぐ死んだんだ」
マダラは小さく言う。イズナの嬉しそうな瞳にはそういう理由があったのか。センリはイズナに向き直り、その手を掴む。
『イズナくん、私はあなたを産んだお母さんにはなれない』
イズナはハッと傷ついたように眉を下げる。
『あなたを産んだお母さんはこの世界にたった一人、あなたのお母さんにしかなれない。でも……二人目のお母さんになら、お姉ちゃんになら、友だちになら私でもなれるかもしれない。
家に置いてもらう以上お家のことは私が色々やるよ。だから一緒に住む家族として色々教えてね!』
センリが優しく言い聞かせる。
家族、という言葉にイズナは嬉しげに微笑み、うんうんと話を聞いたあとセンリの手を握り返して笑う。
「分かった!センリ姉さん!」
センリもその笑みにニッコリする。
一方マダラは驚いていた。センリのような考えの者は一族の中で見たことがなかったからだ。子どもと同じ目線になり、綺麗事とも言えることをハッキリと、そして真剣に語れる。マダラの周りの大人にはそんな人間はいなかった。
第一、知らない人にはあまり懐かないイズナが出会って数分でこんな笑顔を見せている。マダラはセンリに何か不思議な力があるのを感じた。
「…俺達の家に案内する」
楽しげに会話するセンリとイズナに向かってマダラが言う。その表情も数時間前とは打って変わり、一族の仲間に対するそれだった。
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