- ナノ -

-戦国時代-



センリが一族に来てから二年と半年も経つ頃にはセンリは一族の中でもその存在が皆に認められるようになった。

一族内で仲間として見られるようになった分センリは長であるタジマに戦を止めるすべは無いのかと何度も何度も相談していた。タジマに意見を述べる事ができる者は限られていた。自分がその存在に数えられているなら、其れを逃す手はない。しかし何度相談しても、タジマは首を横に振るばかりだった。


この時の忍達の平均年齢は三十歳前後になってしまう程、幼い子どもが戦によって命を落としていた。

うちはも例外ではない。七歳になったばかりの子どもが死ぬ事もあった。センリは領地の墓場に毎日訪れては手を合わせた。

自分たちが広めた忍宗がこんな事になろうとは予想もしていなかった。ハゴロモもきっと同じ気持ちだろう。センリは本来の力(チャクラ)の在り方の意味を知っている。

それ故に、現状が変わるか変わらないかに関わらず、一族をまとめているタジマと話し合う事をやめるわけにはいかなかった。



『タジマくん。憎しみの連鎖は必ず、どこかで断ち切らないといけない。「未来」そのものである子ども達が死んでいく今の現状は変えなきゃいけないよ』


センリを見るタジマの目は鋭かったが、どこか諦めにも似た焦燥も入り交じっていた。


「あなたには分からない……。そうする他ないのです。憎しみを断ち切る、など…それは即ち私達の“負け”を意味する」

『違うよ。仲間の為に、仇を取る為に……その為に戦うという事自体はおかしい事じゃないと思う。でも……そもそも、“力で解決し合う”っていう選択肢自体が間違いだと、私はそう思う』


センリは食い下がる。いくらタジマだろうと、ここで引き下がるわけにはいかなかった。

うちは一族が他族に殺され、そしてうちはがその仇をとる。延々その繰り返しだ。

この状況で「何もしない」という選択肢は、センリの頭の中にはなかった。



傾きかけた陽がセンリの金色の瞳に反射し、一瞬その眼に惹き込まれかけたタジマは無意識にセンリから目を逸らしていた。


「……あなたには分からない」


タジマの声は限りなく小さなものだった。その声に少しの怒りが混じっている事にセンリは気付いたが、圧迫感には微塵も負ける事はなかった。


『確かに、私には分からない事もあるかもしれない。でも―――知っている事も、たくさんある…。大きな力に飲み込まれてしまった先にあるのは、破滅だけだという事。子どもたちはこの先の未来そのものだという事』


センリは穏やかでゆっくりとした口調だったが、どういう訳か、まるで圧倒的な力の前にいるような気分になり、タジマの心臓は通常よりも早く脈打ち始めていた。


『子どもを戦わせる事には、私は絶対に賛成できない。でも、子どもたち全員を行かせるなとは、今の状況下では言えない』


タジマは再びセンリを見やる。心を見透かすような、射抜くような瞳に、今度は視線が外せなくなり、唾を飲んだ。


『だけど……子ども達を見て私が、「この子は戦場に行かせられない」と思った子は、参加させない。これだけは譲れないよ。いい?』


センリの髪が微かにふわり、と揺れた。威圧感では無い、されど有無を言わさぬような、独特な空気を纏うセンリに、タジマは無意識の内に気圧されていた。センリを照らす陽光も相まって、神々しさすら感じた。

底知れない、感じた事の無い空気感だった。


「(一体、どんな秘めた力が眠っているのやら……)」



写輪眼に変わりそうになるのを耐えながら、タジマは微かに頷いた。タジマはまだセンリの素性について勘ぐっているところがあったが、無理に探り引き出すのは、得策ではないと思った。


「まあ、子どもたちをよく注視しているあなたならその辺の事は詳しいだろう……その点は妥協しよう」


タジマが首を縦に振ったのを確認すると、センリはいつものように穏やかな微笑みを浮かべた。


『ありがとう』


センリのような対応をする者を見た事がなかったので、タジマは今だに驚きを隠せない部分もあった。そんなタジマの内心の驚きには気付かず、センリは一歩タジマに近付いた。


『タジマくんも、無理しすぎないでね。みんなタジマくんの事、頼りにしてるんだから』


取り巻く空気が、柔らかいものになる。自分に向けられる温かい言葉と優しい表情に、タジマはやはり戸惑った。だが先程までの強い言葉も、今見せている慈愛の言葉も、どちらもセンリの本心なのだろうという事だけは不思議と感じていた。


「あなたに心配されずとも、自己管理はできる」

『ホントに?イズナやマダラの前で弱さを見せないのは確かにすごい事だと思うけど、たまには息抜きしてね』

「息抜き、など……考えている暇などないでしょう」

『なんだっていいんだよ?好きな料理リクエストしてくたら、何でも作るから』


つい先程まで纏っていた空気が嘘のように、センリとタジマは穏やかに会話していた。センリの言葉と雰囲気に流されつつある自分が嫌になっていたが、タジマ自身どうする事も出来ない事もまた事実だった。


「全く……あなたは調子がよすぎる。現金な人だ」

『まあまあ、そんな事言わず!大人だからって遠慮しないで、たまにはわがままも言っていいんだよ!』

「子ども達に示しがつかないでしょう。息抜き程度なら、自分でどうにかなるのでね」


タジマは呆れたようにため息をつき、面白そうに笑みを零すセンリと共に集会所を後にした。



「…………」



今ではもう父親に気配を悟られずに姿を隠せるようになったマダラは、しばらくその場から離れずに、センリと父の会話を頭の中で反芻していた。


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