-戦国時代-
停戦が決まってから一年経つか経たないかといった時、突然戦はまた始まった。
一族の忍たちはまた戦いにでるようになってしまった。そうなればセンリはまた負傷者を癒す。
センリのチャクラは使っても使っても途切れる事はなかった。その為何時間も怪我を治す作業を続けることができる。確かに何人もの生命を救えたが、チャクラが減らないとはいえセンリも疲れる。稀に日中その疲れが出てぼーっとしてしまう事もあった。
しかし泣き言を言っている暇はない。
七歳を迎え、イズナも戦に出る様になったのだ。マダラには及ばなかったが、イズナもその能力が戦で開花した。
戦いに出る様になってから今まで甘えん坊だったイズナもだんだん変わっていった。
「ボクも早く写輪眼を持ちたい」
戦場から切り傷を負いながら帰還したイズナが、涙をぐっと堪えて呟いた。実力があるとはいえまだ半人前のイズナは、戦場での自分の活躍の度合いに納得がいかないようだ。「写輪眼を開眼したい」という思いがマダラよりも強いように思えた。
センリは正面からイズナを見つめ、両手をそっと握った。
「父様は、“敵を憎んだり、怒ったりすればいずれ開眼する”って言ってたんだ」
タジマや一族の者がいうには確かに、写輪眼開眼に必要なのは「大きな怒り」や「悲しみ」だ。その瞳力は開眼者の精神と深く関係していることも確かだろう。
しかし、近くでうちは一族を見てきたセンリは、その条件にはどうにも疑問を覚えていた。目の前で開眼した者もいたし、その様子を間近で見た事もある。それ故にセンリの中では、写輪眼を開眼するには別の理由の方が大きいような気がしていた。
イズナの目が赤く充血していた。それがやはりどこか哀しげに見えて、センリは握る手にそっと力を込めた。
『イズナ、私はね……それってちょっと違うと思うんだ』
イズナはセンリの目をじっと見つめて、少しだけ首を傾げる。
『写輪眼はきっとね、“本当に大切なものに気づいた時”に現れるんじゃないかなって思うんだ』
「本当に、大切なもの?」
イズナはきょとんとして聞き返した。センリは優しく微笑み、穏やかに続けた。イズナは少し考えるような仕草をした後、また口を開いた。
「敵を倒したいって事?」
センリは困ったように笑い、首を横に振った。
『“本当に大切なものに気付いた時”、写輪眼は“それを守るための力”になるんじゃないかなって、思うんだ。だから、イズナが写輪眼を開眼した時はイズナが“本当に大切なものに気付けた時”だと思う』
イズナはセンリの言葉の一つ一つをじっくり飲み込むように聞いていた。
「じゃあ、ボクはすぐに開眼できるはずだ。だってボクの大切なものは、ボクの家族って分かってるもん」
自身ありげに言うイズナの目からはもう悔しさの涙は引いていた。
『ふふ、でもイズナにとって、もっともっと大切なものがあるかもしれない。イズナが自分でも分からないようななにか、ね』
「えーっ、そんなのないよ!」
『それは分からないよ。だからイズナはイズナの本当に大切なものを見つける為に、頑張っていけばいいんだよ』
「姉さんの言うことは、たまにちょっと難しい……」
『ふふ、じゃあまずはそれがちゃんと分かるようになるまで一緒に生きていこう。イズナが大人になるまで』
「そんなの当たり前だよ!ボク達は家族なんだから」
強さの源が“敵を殺す事”にならないように、写輪眼を開眼する事で“自分を殺す事”にならないように、センリはそっと、これからイズナが歩く道を示してやりたかった。
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