-戦国時代-
川から一族の領地に帰ると、すぐにイズナが飛んできた。
「姉さん!おかえり!」
イズナがセンリの腰あたりにギュッとしがみつく。センリはその頭をいつものように優しく撫でる。
『ただいまイズナ』
「兄さんもおかえり!」
イズナはセンリの横にいるマダラにも微笑むがマダラは何だか呆れた表情。
「お前はホントにセンリセンリだな」
イズナがいつもセンリに引っ付いているのでマダラは少し困り顔だ。あまり父親には見られたくない場面だ。
「センリ姉さんのこと大好きだから離れたくない」
イズナはセンリに抱きつきながら口を曲げる。センリは楽しそうに笑ったがマダラはため息をついた。イズナは「もちろん兄さんとも」と言ってニヤッとする。確信犯だ。
停戦中は基本的に皆は休み、適度に修業して過ごしていた。
その修業をして一年を過ぎる頃にはセンリの印を結ぶスピードや術の発動は写輪眼でも見切れないほどにも成長した。センリは術の事を覚えるにあたってものすごく伸び代があった。
元々戦う為の術等をあまり行使してこなかったセンリだったが、時代はもう違う。いくら戦うのが嫌といえど、時代がセンリに合わせてくれるはずもない。だったら自分が時代に追いつくしかないと思っていた。
しかしセンリは以前やっていたように、チャクラを絆として他者に送る事も実行していた。
それは家族同様であるタジマ、マダラとイズナに限ってのことだったが…。
センリのようにチャクラを他者の体に流す事は誰にでも出来ることではないらしい。
「チャクラが追加で流れてくるというより、センリのチャクラに包み込まれているよう」
タジマはそう言って大層驚いていた。
それはセンリがマダラやイズナを抱きしめる時無意識で発動しているらしく、二人は時々すごく安心感に包まれる時があったのでそういう事だったのかと理解した。
停戦中は食べ物も豊富になって来るし、なにより一族の中にも余裕が出来て皆の気持ちも少し軽くなっている。
マダラは祝い事の度にセンリの作る稲荷寿司を要求したし、イズナは温かい煮込みうどんがとても好きだった。
戦時中という事もあるのか、二人はあまり好き嫌いをしなかった。飯を残すとタジマが怒ることもあるかもしれないが、センリは料理しやすかった。
戦いがないのであれば必然的に一族の中の張り詰めた雰囲気が解かれ、笑顔と余裕が徐々に戻る。
そんな中で、マダラとイズナ、それからセンリは本当の家族のように過ごしている為、継母になったのだと勘違いする者もちらほらいた。特に外部からやってくる者たちはセンリ達の関係性を誤る事が多かった。
「センリさんみたいな別嬪さんを貰えたんじゃあ、タジマさんも棚ぼたじゃのう」
代々うちはを贔屓にしている武器商人の老人がタジマに新しい刀を受け渡しながら朗らかに言った。隣にいたセンリも、当の本人のタジマも面食らいお互いに顔を見合せる。
タジマはセンリが今まで見た中で一番とぼけたような顔をしていた。
「いや、センリとはそういった関係ではありません」
一瞬驚いた様子を見せたタジマだったが、すぐに咳払いをして、いつもの表情を取り戻し、冷静に返した。センリはタジマの様子を見て、ようやく状況を理解し、面白そうに笑った。
『タジマくんは私を居候させてくれてるんだよ!私は家政婦兼、子ども達のお姉ちゃんなんだ』
「ん?そうじゃったのか?ワハハ!そりゃあ、失礼!ワシはてっきり若妻を娶りなさったのかと!」
老人は豪快に笑ったが、タジマは少し不快そうに眉を寄せていた。普段より幾分も幼く、子どものようにも思える表情をしているタジマを見て、センリはくすくす笑った。この様子だと今日の夕飯の時まで機嫌が直らないかもしれない。
『でもおじいちゃん、実は私、タジマくんよりずっと年上なんだよ』
いたずらっ子のような笑みを浮かべながらセンリは商人に囁く。するとまた商人は面白そうに笑った。タジマはそれ以上は言うな、という視線をセンリに向けたが、あまりセンリは気にしなかった。
「センリさんは本当におかしな事を言いよる!」
『ええ、本当だよ。もしかしたらおじいちゃんより年上かも?』
「クックック、センリさんを見ているとそう言われても否定出来ないのがまたおかしい事じゃ!くくく……センリさんと話すのは本当に気分が良い。どれ、今日のものは値引きしてやろう」
『本当に!?こんなに見事な刀なのに?いいの?』
「良い良い!持ってけ泥棒!」
センリは目を輝かせてタジマを見た。少し呆れていたタジマだったが、こうしてセンリのおかげで得を出来たとなれば文句は言えない。今日の所はセンリに説教はしないでおこうかと、タジマは心の中で苦笑した。
しかしそんな余裕のある日常は、あまり長くは続かなかった。
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