- ナノ -

-戦国時代-



『停戦?』


センリが一族に来てから瞬く間に一年。
マダラもイズナも一回ずつ誕生日を迎えた五月のある日、長く続いた戦がだんだんと収まり、ついに停戦となった。


「また戦のない日が続くだろう。他の一族はかなり人員を費やし痛手を負ったようだ。しばらく戦いが再開する事はないと見ている」


うちは一族にはセンリがいる。ほとんどの怪我は治すことが出来るためこれまでと比べて死傷者は大幅に減り、他の一族の力がそれに追いつかなくなったためだ。それを確認した国々はここから長くて二年は戦はしないとタジマは踏んでいた。センリはとても嬉しかった。ようやくまともに物事を考える時間が出来そうだ。

戦争中は、センリが過ごしてきた時ほどではないが食料も少なくなる。だが、かなり質素な食事を続けてきたセンリにとっては充分すぎるほどだった。


「センリ、川に行こう」


停戦と聞き、真っ先にマダラがセンリを誘う。戦争中はセンリは集落の外に出ることを禁止されている。敵と出会う可能性が少なからずあるからだ。しかし停戦になれば、マダラを連れていく事を条件にタジマが許可したのだ。


『うん、行く!』


今日は五月晴れで天気もいい。
イズナは今は一族の中の勉学を教えるところで励んでいる。一族には学校はない。大人達が子どもを集めて世間一般の常識を教えるのだ。所謂寺子屋といったところだ。イズナは六歳になってから修業がない日はほとんどそこに通っていた。そこで文字の習得、世の中の善し悪しを学ぶのだ。もっとも今は戦乱。戦についてがメインだが。

久しぶりの外出でセンリは嬉しそうだった。隣を歩くセンリの楽しそうな横顔を見てマダラも笑みが浮かぶ。

二人が到着したのは、初めて出会った川原。思い出深い場所だ。澄んだ川の水と綺麗な空気をセンリは胸いっぱい吸い込む。


「センリと会ってもう一年か……はやいな」


マダラは川原の大きめの石に座り、足を投げ出す。センリもその隣に座る。


『ほんと!一週間もたってない気分!』


センリの中にカルマはいないはずだが、センリの成長は今まで通り止まったままだった。もちろん用を足す事もない。


「一週間?センリは時が早く感じるって言ってたけどそんなに早く感じるもんなのか?不死ってすげーな…」


マダラが驚いたようにセンリを見る。センリが成長しないのは一族のほとんどの者が知っていることだった。


『あっ、そういえば…マダラにずっと聞きたいことがあったんだけど、すっごく大きくて白い鳥って見たことない?』

センリはカルマの事をはやく誰かに聞きたかったが、何せ戦時中なのでみんなそんな余裕もない。この日やっとマダラに聞くことが出来た。
マダラは「白い鳥?」と聞き返し、考えた。


『そう。不死鳥とか、鳳凰とか…聞いたことない?』

その言葉にマダラはなにか分かったようだった。


「もしかして十尾のことか?」

センリは逆に驚く。十尾は神樹がカグヤの意思を取り込んだ怪物だ。まさかこの時代にあれが……。


『じゅ、十尾がいるの??あの一つ目の?』

しかしマダラはさらに顔をしかめた。


「一つ目?何言ってんだ?鳥だろ?…ここには尾獣って化物がいることは知ってるか?」


マダラがセンリに聞くと、センリは目を輝かせて頷く。

『もちろん知ってるよ!そっか〜みんなここにいるんだ』


なにやら一人で感動しているセンリに怪しい目を向けるマダラ。


「それで、その尾獣は正確には九匹いるんだけど、その尾獣を纏めて頂点に君臨しているって言われてるのが十尾だ。すげー巨大な鳥で不死鳥とも呼ばれてる。白く光ってて尾が十本あるから十尾って呼ばれてる」

『それそれ!それだ!その鳥、見たことある?』



しかしセンリの期待に答えられずにマダラは首を横に振った。


「いや……俺はないし、多分見たことある奴はあんまりいないと思う。神出鬼没って言われてて他の尾獣たちとはちょっとちげェんだ。十尾を捕らえたことある奴は一人もいなくて、突然現れて空から舞い降りて人間たちに警告するんだってさ。あくまで噂だけど………そいつが何かあんのか?」


マダラは不思議そうにセンリを見る。
センリは果たして八つの子どもに話して分かることだろうかとも思ったが、その口を開いた。


『えーっと、私過去から来たって言ったでしょ?その時ずっとその不死鳥と一緒にいたの。名前はカルマって言うんだけどね。それで、実はなにかの呪いをかけられてカルマとバラバラになっちゃったんだ。それで意識がなくなって、気付いたらここにいたの』


要約はしたがセンリの説明にマダラはまだ何か聞きたそうだ。


「十尾に名前なんてあったのか…それじゃセンリに十尾が封印されてたってこと?」

『うーん……どうなんだろう?この不死の力はカルマの力なんだよね。それで見た目の成長は止まってるの。でもカルマと離れ離れになってからも生きてるし成長とまってるし……とにかくカルマと会えば色々わかると思うんだ』


センリはカルマなら何か知っているだろうと踏んでいた。カルマは時を飛ぶ。それならセンリが意識を失っていた間のことも知ってるかもしれないと考えていた。


「そうか……十尾が今どこにいるかなんてわかんないからな…センリの方から呼び出せたりしねェの?」

センリは首を振る。


『何回かやってはみたけど、出来なかったんだよね…。でもこの時代にカルマがいるって分かっただけでもよかったよ!ありがとうマダラ』


センリが本当に嬉しそうにマダラに笑いかけるとマダラはハッとして川を見る。


「別に大したこと言ってない。はやく見つかるといいな、十尾」


カルマが十尾と言われているのは些かおかしな気もしたがセンリは大きな情報を手に入れられて助かった。

「しっかしセンリがあの伝説って言われてる十尾と一緒にいたなんてな……本当にセンリってすげェんだな」


マダラが立ち上がり、伸びをしながらセンリに言う。尊敬の念を込めた口調だ。


『んん…確かに私が不死なのはカルマのお陰だからね!』

マダラは川辺の石を見定め始める。


「いや、そういう事じゃなくて…十尾はその力が莫大すぎて誰も近付けないって噂だ。そんなのを自分の中に入れられるなんてやっぱセンリってその辺の人間じゃないんだなって事」


マダラは薄くて楕円の石を見つけたかと思うとそれを川に向かって投げ始める。


『そんな事ないよ。私はマダラたちと同じただの人間だよ』

センリも立ち上がり、マダラの側へと移動する。この一年でマダラは六、七センチは身長が伸びていた。


『マダラ水切り上手だね!もう少しで向こう岸まで行きそう』


マダラが投げた石は五回ほど水の上で跳ね、川の中にポチャンと音を立てて消えた。


「うん。いつか必ず向こう岸まで飛ばすんだ」


そう言うマダラの瞳には何か決意のようなものが見えた。


『そっか。きっと届くね』

センリはその小さい背中に向かって後押しするように言う。何故だかマダラはセンリが届くと言うと、本当にその通りになる気がしていた。

[ 26/125 ]

[← ] [ →]


back