- ナノ -

-戦国時代-



時の流れは確実にセンリと、マダラ、イズナとの絆を深くしていった。

マダラを慕い、兄の後を追いかける。その二人の姿をセンリはインドラとアシュラの姿に重ねていた。二人はどうなったのだろうと思う日もあるが、何せそれを知る人はここにはいない。

タジマが二百年ほど前まで遡って一族一覧を調べてくれたが、大筒木の名はどこにも無かった。


センリ、マダラとイズナは毎日一緒にいた。毎日共にご飯を食べ、皆で風呂に入り、一緒に寝た。

センリのいた時代とは何もかもが少しずつ違う事を感じる。センリと二人の距離がかなり近いということだ。三人は本当の家族のように日々を過ごしていた。



「……でね!その後にボクが蔓を投げたら、ヒカクが蛇かと思った!ってすごくびっくりしてね、それで―――――」

「イズナ、食事中はもう少し落ち着きなさい。行儀が悪い」

イズナがご飯粒を口元に付けながら今日の出来事をウキウキと早口でセンリに話していると、横からタジマがぴしゃりと言った。

マダラは「仕方ないな」と苦笑していたが、イズナは申し訳なさそうな顔をした後「はーい……」と言って、背筋を伸ばして上手に箸を使って今度は静かにご飯を食べ始めた。

日常生活でも厳しめのタジマの前ではマダラもイズナも少し緊張する事も多かった。


『ええーっ、私は話の続きが気になるのに…!』


落ち込むイズナの気持ちを汲み取ってか、センリは明るい声音でわざとらしくガックリして見せた。
一気に緊張感を崩すセンリを見て、タジマは不機嫌そうに眉を寄せる。


「センリ、あなたまでふざけないで下さい。示しがつかないでしょう」


タジマはセンリにも容赦なかったが、センリは全く気にしていなかった。タジマにも平気で楯突くセンリを見てマダラとイズナは内心ぎくりとしていた。


『せっかくかっこいいんだから、そうやってしかめっ面してるのは勿体ないよー。ほらほら、ここのシワ!』


センリは朗らかに言って自分の眉間をトントンと指した。タジマはイラッとしたが、センリの言葉に真正面から怒る気にはならなかった。


『あんまりガミガミしてると次の夕食の時に“笑い茸”を入れちゃうからね!』


センリがイタズラっ子のように微笑む。マダラとイズナは隣からそっと父親の様子を伺ったが、小さくため息をついただけだった。


「またあなたは訳の分からない事を言って……」


『イズナ、食べ終わったら一緒にお風呂入ろうね!その時に色々聞かせて』

「!――――うん!」


呆れているタジマを気にもせず、センリはイズナに顔を近づけて微笑んだ。イズナは嬉しそうに笑い、大きく頷いた。

イズナはまだ四つだ。そのくらいの年齢なら周りが見えなくてはしゃぐ事も大切な成長の一つに思えた。



イズナは触れたことのない母のぬくもりをセンリに感じていた。マダラは自分達の母について、イズナを産んですぐの夜、森の中で忽然と姿を消し、次の日に遺体で発見されたと教えてくれた。その背にはなにか獣にでも襲われたかのような傷跡があったという。この事はイズナは知らないので黙っていてくれと、マダラがこっそり話してくれた。

母と共に過ごしたのはたったの三年だったが、マダラも亡き母の面影をセンリに感じることがあった。マダラはぶっきらぼうで子どもなのに口調が荒い時もあったが、センリとイズナには心を開いていた。
しかし戦に出るにつれて修業に打ち込む時間も増えた。強くなりたいと言い、その力を高めるのだった。


タジマは二人にとっては偉大な、そして厳格な父であった。一族の長であることもあり、冷徹にも見えるタジマだったが、家に帰れば父にもなる。

家の事をしてくれるセンリに感謝もした。


しかしセンリは何も知らなかった。


うちは一族が力に取り憑かれ、悪に染まった一族だとまことしやかに囁かれていること。センリの存在が想像している以上に大きくなっていることも。

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