-戦国時代-
大人達が戦場に行っている時一族の女性たちはほとんど集落に残る。
女性の忍というのはあまり多くはいないらしい。女は弱い。無理に戦場に出て無駄死にするより、集落に残り、主に家の事、そして家族を守る。それが定義づいている。
しかし妻であり、娘であり、母であり、祖母である女性たちは強い。どんなに戦で人が死のうが、気丈な表情で、毎日変わらず家事をするのだ。
それから幼い子どもたちも同様で、七歳を迎えるまでは子どもたちは戦には行かず、主に修業をして過ごした。だがその修業もいつか戦場に出る為の努力だと思うとセンリはどうしても良く思えなかった。
しかしセンリは戦がある日もそうでない日もイズナたちを含めた子どもたちの修業も見た。
『強い力は必ず、なにかを守るための力にもなるんだよ』
センリは修業に付き合う時は必ず様々な言葉を添えていた。特に子どもの場合はよくよく言葉を噛み砕き、その力が誰かを傷つける為だけの力にならないよう、教え込んだ。
「?……戦で勝つため、でしょ?」
イズナはセンリから手渡された手拭いで額の汗を拭いながら、不思議そうに返した。隣に立つ、イズナのと歳の近い子どもたちもきょとんとした顔でセンリを見上げていた。
センリは困ったように小さな微笑みを浮かべながらイズナの頭をぽんぽんと撫でた。
『私は戦場に行った事がないから分からない事のほうが多いけれど……でもこれだけは言える。あなた達が今修業して強くなる理由は、決して“戦のため”じゃない』
「じゃあ、なんのため?」
イズナの隣にいたヒカクという男の子が首を傾げながらセンリに問いかけた。
『そうだなあ……それは人それぞれ、かな。じゃあ、イズナ、あなたにとって大切なものはなにかな?』
「兄さんとセンリ姉さん!あと父様も!」
センリがイズナに優しく聞いてみると、イズナは即答した。センリは一瞬目をぱちくりさせたが、すぐに微笑んだ。
「じゃあ……じゃあボクは、姉さんと兄さんとずっと一緒にいられるように、強くなる!あと父様よりもずっとずっと強くなって、“すごい”って驚かせる!」
イズナは、いい事を思いついたというふうに言って満面の笑みを浮かべた。センリも笑みを返す。
『それは嬉しいなあ。じゃあ、すごく強くなって、タジマくんが尻もちつくくらいびっくりさせよう』
「じゃあオレは病気の母さんを守るために強くなる!」
イズナよりも少し年上の男の子が続いて言った。
『わあ、いいね!かっこいい』
「私は弟と妹より強くなって、それでずっと一緒に暮らす!敵が来たって絶対に負けないの」
『それ、素敵!最強の忍だね』
「オレはいつも兄ちゃんに助けられてばっかりだから、大人になったら超強くなって、兄ちゃんが負けそうな時は絶対守ってやるんだ!」
「わーお、それって最高」
イズナに続いて次々と手を挙げる子どもたちにセンリは喜んで返事をした。“大切なもの”が何なのかを考えられる子どもたちの未来が明るいものになる事を願わずにはいられなかった。
身につけた強さがこれから先、戦う為の強さではなく、誰かを守る為の強さになることを願いながら、センリは日々を過ごした。
なぜここに来たのか、ここはどの時代なのか考える暇もなく目まぐるしい毎日は過ぎ去って行った。
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