- ナノ -

-描いた夢-



『はい』


そしてニッコリしながらそれを差し出すので扉間は手の平を出す。するとそこに透明な袋に包まれた飴玉のようなものが載せられた。


『元気が出る飴だよ』


扉間は手のひらに載せられたそれを見る。透明で少し白みがかった飴玉のようなものだ。


「兵糧丸か?」


兵糧丸というのは使用した者の体力等を一時的に飛躍的に上げるもので秘薬とも言われているが、お世辞にも美味しいとは言いがたいものだ。しかしセンリは首を振った。


『兵糧丸じゃないよ。元気になるように特別に作った飴だよ。心配しないで、毒じゃないから』


じとっと自分を見る扉間を見返してセンリは微笑んだ。


『きっと扉間くんの事だから休憩の時間もずっと休まず何かやってるんでしょう?たまにはちゃんと休まなきゃダメだよ』


本当に自分を心配しているような口調で言うので扉間はどうしたらいいか分からずセンリから目をそらした。


「別にお前に心配される程疲れてはいない。それに早く集落を作ればこうして飛雷神でお前のところに飛んでくる事も無くなるだろう」


扉間の表情は変わらない。


『…扉間くん屁理屈間』


いつか言ったようにボソッとセンリが呟く。扉間はすぐに「何だと?」と反応する。



『とにかく今日は飴食べて早めに休んで。無理したらダメだよ』


少し真面目な顔になりセンリは扉間に言い聞かせた。


『明日、体調悪そうだったら無理矢理寝かせるからね!』


扉間が口を開かないうちにセンリはそう言って扉間に手を振った。


『じゃあ、また明日ね!』


そしてセンリは最後まで扉間に笑顔を向けながらちょっと急いだ様子で走り去って行った。
もうすぐ夕食の時間なので帰って準備でもするのだろうか。扉間はふと思って手の平の飴玉を見る。白く丸い小さなそれが何故かセンリの後ろ姿と重なる。

センリが走って行く後ろ姿が一つの家の戸を開けるまで扉間は見ていた。日はほとんど傾いている。扉間は飛雷神で兄の元へと帰った。



「お、伝えてきてくれたか扉間」


柱間がテーブルの上の巻物から顔を上げて目の前に現れた扉間を見上げる。


「ああ」


扉間は短く返事をする。すると柱間は、ん?と弟を瞬きもせずに見つめる。まさか兄にも疲労が溜まっている事を見抜かれたかと扉間が考えていると柱間が口を開く。


「扉間…何かいい事でもあったか?」


予想外の言葉に扉間は少し戸惑ったがすぐにいつもの表情に戻る。


「いや、別に何も無いが」


しかし柱間は顎に手を当て扉間の顔を凝視している。


「そうか?いつもより表情が柔らかい気がするぞ」


扉間は兄の言葉に耳を傾けずにため息を吐いて障子を開けた。


「…兄者も少し休め」


そう言って扉間は障子を閉めた。柱間は障子越しに歩いていく弟が去っていくまで不思議そうに眺めていた。


「…?」


いつもより微かにやさしい弟に少々驚きを覚えつつ、そういえば最近扉間も動きっぱなしだったと思い出しあいつも疲れているのだなと結論を出した。



「………」


自室に向かう時扉間は手の平を開きセンリから貰った飴を幾分か眺めたあとその袋を開けてそれを口に入れた。


−−無理しちゃダメだよ。


他人から心配されるほど自分は疲れて見えるのだろうかと考えてはみたがいくら考えても落ち度はない。センリは自分のことに関しては鈍感なはずなのに、他人の事にはやけに鋭いのかなんてふと思って扉間は自嘲した。

人から心配されるなんていつぶりだろう。長く続いた戦乱のせいでそんな情なんて忘れていたし、もちろん人にも情けをかけることなどしなかった。それなのに何故センリは心温かな情を忘れないでいられるのだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎったが扉間は考えるのをやめた。

飴玉を舐めていると嘘のように疲れがとれ、体が軽くなっていった。コロン、と飴が歯に当たって小さな音をたてる。今まで食べたことのないやさしい、甘さだった。

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