-描いた夢-



ひとしきり笑った後、イズナは満足したようにふう、と息を吐いた。センリはイズナが少々酔っていると思っていたが、そうでもなさそうだ。

ふ、と思い出したようにイズナがセンリを見た。


「そういえば、さ」


今度は少し真面目な表情になってイズナが言うのでマダラもセンリも不思議そうに弟を見た。


「昔……ボクは早く写輪眼を持ちたいって、そればっかり考えてた」


先程より小さな声でイズナが話し始める。センリはすぐにその頃の幼い頃のイズナを思い出す。


『そうだったね。マダラよりイズナの方が、早く写輪眼を開眼したい!って言ってた気がする』


そう言われるとマダラも弟が修業中もよく焦っていた事を思い出した。


「そう。何度も何度も姉さんに相談してた記憶があるよ」

「確かにそうだな。戦いの最中も焦り過ぎて後先考えないで突っ込む事があったから、俺も何度か注意したような気がする」


戦術に関しても、自分もイズナもまだ疎かった頃の記憶を思い出し、マダラは苦笑した。


「父さんが“憎しみを持てば写輪眼は開眼する”って言うから、ボクはとにかく敵を倒さなきゃって思ってた」

「それが写輪眼を開眼する為の条件みたいなもんだからな。“深い悲しみや怒りの感情に飲まれた時、己の力不足を痛感した時…その時に、脳から特殊なチャクラが発生し、視神経が影響を受けることで開眼する”と……うちはの人間なら皆そう教えられてきただろう」

「そうさ。ボクも、ずっとそれを信じてきた」



もちろんマダラも幼少期から他の大人達にそう教えられてきている為、開眼方法に何の疑問もなかった。だがイズナはなぜか困ったように眉を下げ、失笑するように微笑んだ。そして隣に座るセンリを見つめた。


「でも、ある時姉さんがボクに言ったんだ。それは違うんじゃないかっ、て」


センリも、イズナがどんな記憶を巡っているのかが分かり、そっと微笑みを返した。


「どういう事だ?」


マダラはきょとんとしたような顔をセンリに向ける。少し幼く見えるその表情にセンリは笑いながらも、答えた。


『あれはイズナが…ずいぶん小さい時だったよね。七歳くらいかなあ。写輪眼の事で悩んでて、同じ事をタジマくんから言われたからって、その為にとにかく怒りや憎しみを増やそうとしてたんだよね。イズナも覚えてるんだね』


イズナが「そうそう」と苦笑したまま頷いた。


「でも……姉さんはさ、一族の大人達とはまるで違う事を言ったんだ。他の誰にも言われた事がない、おかしな開眼方法…」

『でも私は今でもそうだって思ってるよ。うちはの人達が写輪眼を開眼する時は、“自分が本当に大切なものに気付いた時”だ、って。原動力になるのは、怒りや悲しみや憎しみじゃなくて、守りたい強くなりたいって思う願いなんだろうなって』


マダラは一瞬微かに目を開いたが、それがセンリの言葉だと思うとなるほど、と納得した。



「あの時のボクには、少し難しくて分からなかったんだ。だから、その後姉さんがいなくなってからも……ずっと、開眼方法について考えてた。姉さんの言う事はただの空想的な絵空事なんじゃないか、って思った時もあった。結局今の今まで、姉さんと同じ事を言う奴はいなかったし」

『綺麗事だっていいんだよ!だって、私はうちはのみんなを見てそう思ったんだもん』


考えを否定するでもなく、はたまた文句を言う訳でもなく、真っ直ぐな瞳で言い切るセンリの笑顔を見て、イズナは子どもの時と変わっている自分の主観にハッキリと気付いた。


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