-描いた夢-



慣れ親しんだ家から次々と荷物がなくなっていく様子を見ていると突然、「戦が終わったのだ」という実感が湧いてきていた。

センリとイズナとマダラは、里が出来るまでの間、今までより三人で食卓を囲む時間を大事に取るようにしていた。昔からずっと大切な時間だった

幼い頃は父であるタジマが躾には厳しくしていた為食事中でも仕草に気をつけていたイズナだったが、今となってはマダラとセンリと会話を楽しみ、声を上げて笑う事もあった。


『この家とももうさよならだって考えると、ちょっと寂しいね』


ふと思い出したようにセンリが言うと、互いに徳利を傾けようとしていたマダラとイズナはその手を止める。確かにそう考え始めると、まるで走馬燈のように幼い頃の記憶が蘇ってくるのは少し不思議な事だった。


「何だかんだずっとここで暮らしてきたからね」

『二人が小さい時の事思い出すよねえ。タジマくんはいっつもご飯の時は厳しかったから、イズナは毎回のように怒られてたもんね』


昔を思い出してセンリが含み笑いすると、イズナは少々不服そうにセンリを見たが思い返すとその通りで、結局「確かに」と納得した。


「父さんは神経質だし細かかったからな。でもまあ…男手一つでボク達を育ててくれた訳だし、そりゃあ子どもの時はちょっとムカッとした時もあったけど……今となっては感謝してるよ。ねぇ兄さん」


そう言ってイズナは、空になったマダラの猪口に酒を注いだ。アルコールのおかげか、イズナの口調は普段よりも幾分かゆったりとしていた。


「そうだな。苦労もあっただろうが、俺達には弱味を見せない人だったからな……。センリが来たおかげでかなり楽になっていただろうが……」

「姉さんには見せていたんじゃないの?」


頬杖をついて二人の会話を聞いていたセンリは、何年か前の事を思い出す。


『うーん……確かにタジマくんは隙を見せたくないって感じの人だったからなあ……。私に対してはだいたい、「全く、あなたは…もう少しまともに出来ないのか?」とか、「子ども達の手本になるように生活なさい」とかいつも説教されてた気がするよ。イズナと一緒だね』


センリが精一杯声を低くして腕組みをし、何とかタジマを真似ようとするのでイズナは軽快に笑った。


「ハハハッ、なにそれ、すごい簡単に想像つくな!」

「裏を返せばお前の事を信用していたという事だろ」

『まあ、確かにそうだよね!私の事をかわいーい娘だと認識してくれていたのでしょう!いやあ、ありがたいね』

「いや、姉さんの方が年上だろ!」


面白そうに笑うイズナを見てマダラもフッと笑みを漏らした。イズナはひとしきり笑った後、今度は目尻を下げてセンリを見た。


「全く、本当に姉さんは……―――でもボクは、いつも味方になってくれていた姉さんにも兄さんにも、本当に感謝してたんだよ。父さんに怒られた時だって、姉さんは言い返してくれたし、兄さんは慰めてくれた」


マダラは酒を呑む手を止め、イズナを見た。マダラと違いあまりアルコールが得意ではないイズナは、すでに顔が赤らんでいる。今言っている事もきっと本音なのだろう。


「気落ちしている弟を慰めるなんて、兄の役目としては当たり前の事だろう。お前が泣いている時は俺もよく心苦しくなったもんだ」

『そうそう。タジマくんはマダラに、「お前はイズナを甘やかしすぎだ。弟の前では、六道仙人のように超〜厳格で尚且つ超〜聡明でありなさい!でないと、月に代わってお仕置きよ!」って言われてたよね』


再びセンリがタジマの口調を真似ると、今度はマダラも一緒に笑った。


「馬鹿、そんな事は言ってねーだろ」

「姉さん、さすがに話盛りすぎ!」

『ごめん、ついお酒が入っちゃってさ……』

「お前、一滴も呑んでないだろ。残念だがその言い訳は通用しねェな」

「ホント、姉さんっておかしいんだから!」



父親の事を思い出して、こうして笑えるくらいになったのもまたセンリのおかげなのだろうと、楽しげな弟とセンリと共に一笑しながらマダラは猪口を傾けた。




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