-うちは一族と光の巫女-
『あの……話の意味がよくわからなかったんだけど…』
センリが男を見上げながら首を傾げる。その様子を男が見下ろす。昨日感じた殺気は今日は感じられなかった。瞳も写輪眼ではなく、普通の黒い眼に戻っている。
「あなたを殺さず、ここに置くという事です」
男は腕を組み、センリに言う。その口調は静かなものだった。敵に対するそれではないことはセンリにも分かった。
『それは…ありがとう。突然のことで私もどうしたもんかなと思ってたから、助かったよ』
どうやら殺されずに済んだとセンリは安心した。カルマがいない分、殺されたら生き返れないと思ったからだ。
『あの、光の巫女、ってどういうこと?』
男はセンリから視線を外し、後ろを見やる。その壁には団扇のような絵が描かれていた。
「…私達の一族には代々伝えられている事柄があり、その巻物は遥か何百年も前に書かれたものだとされている」
男は話そうかどうか少し迷った様にセンリを何度か確認した後、一息吐いて、団扇の絵柄をじっと見つめ語り始めた。
「その巻物に書かれている事柄は一族に密接に関わるもの……。“白く輝く光の巫女が現れる時、その光は我が一族に多大な影響を及ぼす事になるだろう”……。光の巫女という女性は一族にとって重要な要になるだろうという事が記されているのです。
その巫女は、時を飛ぶ白銀の光そのもの。その者の前ではうちはの瞳術も一切通用せず、絶対的なチャクラを持ち、それから治癒能力に優れ、すべてを再生する力がある。歳をとらず、不死ともいえる力を宿す……そしてその力は全ての頂点に立つ者の強力な武器になる、と。
そしてその巫女の容姿についても詳しく書かれている。
白く光輝く髪、美しい容姿、そして渦を巻いた特徴的な黄金の瞳……。全てあなたと一致する。
私もにわかには信じられませんでした。しかしあなたを見てその可能性がかなり高いと推測しました……。この写輪眼が全く効かず、それを持ってしてまで計り知れないチャクラ量……しかしそれをあなたはコントロールしている。代々伝わってきた巻物ですが、長らく光の巫女と思わしき人物等現れなかったので正直なところただの伝説かとも思っていましたが……」
男は未だ信じられないようだった。センリをまじまじ見る。
『んん…それが本当に私なのかはよく分からないけど……。違うような気も……でもあなた達に歯向かう気も攻撃する気もないよ。それに、私もここが一体どこなのかまだよく把握してないんだよね…。色々教えてくれないかな、えっと…』
センリは男を見上げる。
「タジマです。うちはタジマ。ここの一族の長です」
男はセンリの聞きたい事を察知し、名乗った。案外礼儀正しいようだ。
『私はセンリ…って昨日言ったな。よろしくね、タジマ君』
センリはニッコリしたがタジマは眉をひそめる。
「……見たところあなたは私よりも幼いように見えますが…」
君、と付けられたことを怪訝に思ったようだった。センリは苦笑いする。
『ごめんなさい、ちょっと長く生きてるからつい…』
センリは申し訳なさそうに言うとタジマは少し機嫌を直したようだ。
「長く生きてる、とはどういうことです?不死、というのは本当なのですか?それにあなたが本当に光の巫女だとしたら…一体どこから来たのですか?」
タジマは興味深そうだった。センリは普通の人間ではないという事を薄々感じているようだった。センリはうーんと考える。
『(前の世界で二十五年…で、こっちでは…)』
センリは指を使って数を数える。
『百年くらい経ってるかな』
その言葉にさすがに驚くタジマ。大きなリアクションは無いがびっくりしているようだ。
「百年、ですか……それは確かに長生きですね。しかし巻物は何百年も前から伝わっている。となると…」
タジマはまた考えを巡らせ始めたようなのでセンリが説明する。
『あの、百年って言っても……私もともとこの世界にいた訳じゃなくて…えっと、信じられないかもしれないけど……時空っていうの?それを飛んでるみたいなの』
その説明にタジマはなにか分かったようだった。
「なるほど。時を飛び、というのはそういう事なのかもしれませんね…時空をも超える。現実的に考えれば有り得ない話ではあるが……あなたが本当に光の巫女だと言うならそういう事もあるのかもしれませんね。空から舞い降りたと言うくらいですから…」
口元に手を当てなにか考えるような仕草をする。
[ 12/125 ][← ] [ →]
back