- ナノ -

-うちは一族と光の巫女-



「おい、起きなさい」


次の日、センリはまだ眠気が飛ばない中、体を揺すり起こされた。そして寝起きの頭が回らないまま男に体を無理矢理立ち上がらされた。


『あ…おはよう』

そんな状態にもかかわらずセンリは律儀に挨拶をする。


「一族の皆の元に連れていく」


声からして昨日の男だ。センリは立たされると、男はセンリの手首の縄を解く。圧迫感から開放される。センリの手首は縄の跡が痛々しく赤く残っていた。そんな事は気にしていない様子でセンリは男を見る。どうせすぐに消える程度のものだ。


「着いて来なさい」


男は部屋を出て写輪眼のままセンリを誘導する。縄を解いたが信用はされていないようだった。

センリは少し足元がおぼつかないまま外に出る。辺りを見回すとそこは家々が集まった大きな集落のようなところだった。見たところ木造の家で、一族の家紋と見られるものを描かれた旗が風にはためいている。

センリはその一角にある、集会場のようなところに連れていかれた。


中に入ると、たくさんの人々の顔がこちらを捉える。数はおそらく三十人ほど。ほとんどが大人の男性だが女性も五人ほど見受けられた。センリを見て口々になにか囁き合っている。しかしそれは嫌悪感のそれではなく、物珍しがるような囁き声だ。


「あの女が……」

「まさか、本当なのか?」

「しかし、まるで天女だな」

「光の巫女……」


男はセンリを先導し、その人々の前に立つ。正面から見るとその人々の目は半数近くが写輪眼の状態だった。

「皆の者、昨日に引き続き集まって貰って申し訳ない」

センリを連れた男が人々に向かって話し出すと、途端に静かになる。どうやらこの男がこの集落を治めているようだった。


「この者は…昨日言ったように十中八九、代々うちは一族に伝えられる光の巫女と見て間違いはないでしょう」

また人々がざわめいた。センリは訳が分からず男の横顔を見上げていた。ざわめく民衆を男が手で制する。


「しかし、まだ確証はない。昨日決めた通り、この者はうちは一族の集落に置き、様子を見ることにする。そしてこの者が何かおかしな行動をすれば即処分する事を許可する……が、もしも光の巫女が伝承通りならばこれから先うちはにとって重要な宝に成りうる」


センリは言葉の意味を理解しようと一生懸命男の話に耳を傾けた。詳しい内容はよく分からなかったが、どうやらここに置いてもらえるらしい。


「この者は私のところで預かる。以上で話は終わりだ。解散」


案外あっさりと集会は終わった。人々がざわざわしながら部屋を出て行く。

最後の一人が部屋を出ると、センリは男を再び見上げる。昨日は暗くて分からなかったが、歳は三十代前半といったところだ。やや人を見下したようにも見える暗い瞳に、分けられた硬そうな前髪は少し長く、襟足は刈り上げられている。身長は百七十後半に思われた。

先程も思ったが、一族で皆似た装束を纏っている。暗い色で統一されているようだ。

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