-うちは一族と光の巫女-
『あの……変なこと言うけど、私、この世界のこと…乱世とか本当に知らないの。私のいたところではあなたの様な服装の人見たことない。もしかしたらこの世界の人間じゃないかもしれないし…』
センリは男の眼を射抜くように見つめる。
『信じてほしい』
真っ直ぐな視線と言葉に男は一瞬クナイを持つ手を緩め、動揺した。そしてセンリの瞳をまじまじと見つめ、何かに気付いたようにハッとした。
「その眼………!」
男は慌てたように言い、勢い良くセンリの顎をガッと掴み、無理矢理自分の方を向かせる。センリの黄金に輝く瞳が紅い瞳と重なる。
『あ、あの…』
男は瞬きもせずにセンリの顔を見つめた。しっかりと眼を合わせセンリに幻術をかけてみるが、全く手応えはない。
突然顔を掴まれたセンリは、抵抗こそしなかったが何が何だか分からずもぞもぞした。
「写輪眼が全く効かない……まさか………あなた…光の巫女…」
男は擦れた声で呟く。そしてようやく忘れていた瞬きを繰り返す。
『?』
センリは興味深く眺めてくる男の顔を見返すが、全く持って知らない相手だ。
しばらく観察し、男はセンリの顔から手を離す。
「…センリ、と言いましたね。医療忍術を使えますか。………人を治癒する能力です」
男はセンリが首を傾げるのを見て言い直し、センリに尋ねる。
『えーっと、怪我とかを治すやつ?それなら出来るよ』
「自己再生能力は?」
『自分の怪我?すぐに元通りになるけど……―――』
男は矢継ぎ早に質問をし、センリは不思議そうに男の問いに答える。男は、まだなにか信じられないと言った様子でしばらくセンリを見ていたが、突然思い立ったように立ち上がる。
「…これから一族であなたの処遇を決めて来ます。今日はもう遅い。明日の朝、そこで決まった事をあなたに伝えに来る。逃げようと考えない事です。この部屋を出た瞬間あなたの命はそこで終わる」
男はそう言うと蝋燭を消し、センリを脅すように振り返り、襖を開けて出ていった。
仄灯りが消え、辺りは本当の暗闇に包まれる。襖から微かに月明かりが射し込んでいる。
『(一体ここはどこ……?私の中にカルマはいない……死んではいないけど……離れ離れになってしまったってこと?カルマは離れてしまったらもう一度見つけるのはかなり難しいって言ってた……。
私が元々いた世界ではないことは明らか……写輪眼を持ってる人がいるって事は……まさか………。でもカルマは時空を飛んでるって言ってたし……。私も随分長い間眠っていたように感じる…。さっきの男の人は私が空から降ってきたって言ってたし…。あの人の姿…服装、この建物……。そう思うのが一番現実的…。ここはハゴロモたちと過ごした時代ではなく……
おそらくは、未来の世界…)』
そう考え付くとセンリは長く息を吐き出した。扉の外には人の気配がした。おそらく見張り番だろう。
『(また時空を飛んだってこと……?でも……あの子………インドラの面影を感じた………いや、私が変な夢を見ていたからかな…気のせい、か…)』
センリはコツンと頭を畳につける。なんの音も聞こえない。
『(とにかく、明日もう一度話をして…)』
センリは大きく欠伸をする。
体の力がだんだん抜け、瞼が重くなってくる。それに逆らわずに目を閉じるとすぐに眠気はやってきた。
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