-描いた夢-
その次の日マダラは約束通り大名たちの元へ出かけて行った。イズナは少し心配そうだったが、センリとマダラは何とか説得した。
その日の昼食はイズナと二人きりで食べることになった。
『ねえ、イズナ。イズナは大名の人たちに会ったことある?』
食べ終わった昼食の器を片付けながらセンリがイズナに向かって問いかける。
「ボクは会ったことはないな。兄さんは長だったからね、何度か会ったことがあったかも」
イズナはテーブルを布巾で拭きながら答える。センリもこの世界の大名というものがどんなものなのか知らなかったので興味があった。
『そっかあ。どんな人たちなのかな?』
呑気なセンリの言葉にイズナは吐き捨てるように笑った。
「まあ、表向きは国を統治してる偉い人って事だけど実際遊び暮らしてるような感じ。お互い国の利益の為に一族達を雇って戦わせて自分達は何もしていない。権力と政治力があるのは確かだけど」
何だかイズナは大名の事をそれほど良く思っていないようだった。
『偉い人ってことには変わりないんだね。一回見てみたいなあ。天皇、って感じなのかな?』
センリは元の世界の歴史を思い出しながらふと言った。
「姉さんだってそのうち会うことになるだろ?柱間と、兄さんと一緒にさ」
イズナは布巾を流しにセンリの元に近づく。
『そうかなあ?』
センリは首を傾げたがイズナは自信ありげだった。センリは全て食器を片付けると歯を磨き、再びイズナに声をかける。
『ねえねえイズナ、一緒に魚取りに行こうよ!十月になったばっかりだからまだ鮎がいるかも!』
センリは忍服の整理をしているイズナのところに言って催促する。
「もう暑くないけど川に入るの?絶対姉さん服濡らすから風邪ひくよ」
センリが魚取りに行こうという時は大抵釣りではなくて手掴みで追い込んで取るのでいつも水浸しになるのだ。しかしセンリは食い下がる。
『大丈夫!気を付けるし今日はそこまで寒くないよ!行こうよイズナ』
傍から見たらただの子供のような言い分だがイズナには分かっていた。
「分かったよ。絶対川で転ばないでね」
『大丈夫!よーっし。バケツ持っていかなきゃ…』
センリはイズナの返事を聞くなり張り切って道具を探しに行った。それを見てやっぱりイズナは思った。センリは自分を落ち込ませないように楽しませようとそうしていること。写輪眼が無くなったことをなんでもない事だというふうに接してくれていること。それはイズナには分かっていた。
『ヒカクも誘う?』
「みんな集落の移動の準備で忙しいらしいよ」
『そっかあ。じゃ二人でお出かけ〜。デートデート!』
「兄さんに怒られるな…」
『怒っても今度三人で行けば許してくれるよ!』
「…そういう事じゃないんだけど」
『どっち側の川に行こうかな?やっぱり南の森の方がいいかな?』
しかしやはりセンリは川で尻から落ちてびしょ濡れになりながらイズナと帰ってきたのだった。
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