- ナノ -

-描いた夢-



無事に休戦協定を結ぶ式は終わり、この先の事は双方互いの一族の長に従うという事で同意した。


その後うちは一族を引き連れて帰省するのはイズナに任せ、センリはマダラと柱間、それから扉間を連れてあの川がある森……マダラと柱間と夢を語り合った景色が一望できる崖がある森に来ていた。柱間もマダラも崖の下の森を切り開いて新たな里を作るつもりだった。

この森は火の国のものではあるがそこまで大きな集落をつくるのではない限り、大名や誰かの許可は必要ないらしい。しかし大きな里をつくるとなったら話は別だ。

柱間の予想ではその先この協定に他に参加したいと申し出る一族がいるだろうとの事だ。大名に話をつけに行ったり、家々を作るための大工を雇ったりと、やる事は意外とあり、すぐに集落が作れる訳では無い。それらを相談するのにうちはと千手が互いに意見交換をする場が必要だという事で、双方の集落のほぼ中間にあるこの場所にセンリは小屋を建てようと思ったのだ。

センリは崖下の辺りに三人を連れてきた。


『この辺りにとりあえず一つ小屋を建てるね』


とセンリは言うが周り一体は木々だらけの森だ。一つ建物をつくろうにも木を伐採して土を一から整えるなどしたら時間はがかかるだろう。柱間なら木造の家くらい造る事が出来るだろうが、やはり術を解けばそれもなくなってしまう。

不思議がる三人を見てセンリは微笑んだ。


『ちょっと柱間の木遁を貰ってもいい?』


突拍子もないセンリの言葉に柱間は面食らった。


「どういうことだ?」


首をひねりながら困惑する柱間にセンリは右手を差し出した。


『ちょっと手だして』


柱間はよく分からないままだったが、センリの手を握った。マダラも扉間もセンリが何をしようとしているのか分からなかった。


「…!!」


すると突然柱間がよろめいて、尻餅を付いた。センリの手を握った途端全身の力が吸い取られるように一気に抜けてしまったのだ。センリは苦笑いしながら柱間の手を離す。


「力が…」

『ごめん、貰いすぎたかも』


マダラは咄嗟に写輪眼を使った。その目で柱間を見やるとセンリが柱間のチャクラを吸い取ったのだと理解した。


「柱間のチャクラなんて取ってどうするつもりだ?」


マダラが腕を組み、センリに問いかける。柱間は地に尻をついたまま起き上がれないようだった。


『えっと、柱間の木遁を貰ったの。それで…』


そう言うとセンリは少し周囲を見渡したあと、地面に胡座をかいて座り込む。そして何やら印を結んでいく。するとセンリの体から白いチャクラが漏れだし体を包み、そして十本の尾が現れた。


「(十尾の……)」


その形はかつてマダラが見た事のある不死鳥の尾だった。扉間はチャクラに圧倒されて一歩後ずさった。


『(万物創造の術・創築!)』


地面に手をつけばパシという乾いた音がしてなにかの術式のような文字がセンリの下に浮かび上がる。

少し地面が振動したかと思うと四人の目の前にあった木々がまるで逆再生したかのように地に戻っていく。二十メートル四方ほどの間隔にあった全ての木々が無くなったかと思うと土に還った地面から新しい何かが飛び出してきた。建物の形を型どってそれは瞬く間に一つの家になった。そこに現れたのは二階建ての立派な家だった。


「ほーっ!これは凄いな」

柱間が大きな一軒家を見上げながら感心する。建物が現れるとセンリのチャクラは消えていった。


「どうやったんだ?兄者の木遁を使ったのか?」


扉間も驚嘆していた。木々の生命エネルギーを操れるのは木遁使いである柱間だけだ。センリがやった事は紛れも無く木遁そのものだった。センリは地に手をついて立ち上がる。


『そっ。柱間の木遁を貰って木を家の形に変えて、土遁と水遁で泥をつくって、それで火遁でセメントみたいにして氷遁で冷ましてええっと…………なんかそんな感じ』


なんとか説明しようとしたが言葉に出来ず、センリは無理矢理まとめた。


「本当に凄いなセンリは!さすがのオレでも木造の屋敷くらいしか出せないぞ!」


なぜか柱間は誇らしそうに笑った。そもそも二人共に規模が違うので、扉間とマダラは少し引いたような表情で見ていた。
センリもヘヘヘッと自慢げに笑い返して、再び柱間の手を握ってチャクラを返した。柱間は立ち上がり、土埃をパンパンと払った。


『これから色々決まるまでは、ここで相談とかすればいいよ!寝泊まりも出来るようにしておいたから』


センリは三人に向かってにっこりした。そしてセンリは扉間に向き直る。


『扉間くん、私に飛雷神の術式をマーキングしてよ。それで、ここから千手一族のところまでと、うちは一族までの道のりにも所々マーキングして…で、私にもしておけば移動も簡単だよ』

「しかし飛雷神のマーキングは消えないぞ」


いい案だと思ったが、扉間は神妙に眉を寄せた。扉間が飛雷神で飛ぶための術式を印すとそれは一生消えないのだ。しかしセンリは大丈夫と元気よく言った。


『いや、消せると思うから大丈夫だよ!ほら、ちょっとここにやってみて』


そう言うとセンリは袖ぐりを扉間の前に差し出した。少し迷っていたが服ならと思って扉間はそこに手をかざし飛雷神のマーキングを施した。そしてセンリは術式を確認した後、そこに己の手を当て、それそっとをずらせば袖に描かれた飛雷神の術式が消えていた。


『ほら!大丈夫!』


センリが適当に言ったと思っていた扉間は、その光景に目を見張る。マダラは少し眉をしかめながらそれを見ていたが、隣の柱間はほーっ!と言いながら感心している。



「さすがはセンリぞ!」

『まあね!元に戻すの得意なんだよ!』

「…何だかお前に驚くのは疲れたな……」


扉間は、きゃっきゃっと騒ぐセンリと兄を見て小さく呟いた。なぜか飛雷神のマーキングが消えることを確認した扉間はセンリの腕に再び術式を施した。これでセンリとマダラが離れたところにいても、時間をかけずに会いに行くことが出来る。

マダラは納得行かないような顔をしていたが柱間も大いに賛成した。


「まずはこの事を火の国の大名たちに伝えに行くのだが……マダラ、一緒に来てくれないか?」


柱間がマダラに問いかける。マダラは柱間をじっと見て考えた。同盟を組んだのだから互いの長が出向くのは道理である。



『それがいいね!二人が行った方が大名の人たちも信用してくれそうだし……マダラ、うちはみんなの事は私とイズナに任せて』


マダラの考えている事が分かったのかそうでないかは明らかではないがセンリの言葉にマダラは少し安堵する。


「分かった。柱間、俺が行こう」


マダラの返事を聞いて柱間は笑顔になる。かつての友とこうして気兼ね無く会話できることを柱間は夢見ていた。


「よし。では明日の正午にここに集合ぞ」


マダラは分かったと言って頷いた。まるで今まで見てきたマダラとは違うので扉間は様子を見つめながら驚いていた。嬉しそうな柱間の姿を見てセンリも嬉しくなり笑みを零す。


『ふふふ』


センリが笑うので三人はどうしたのかとリンネを見た。マダラが柱間とこうして言葉を交わすのは本当にセンリにとって幸せな事だった。


『これから、がんばろうね』


誰に言うでもなく、センリはそっと呟いた。柱間は大きく頷く。


「そうだ。これからが大変ぞ。明日のためにも、早めに帰ろうとしようぞ!」


既に太陽は傾いてきて昼はとうに過ぎていた。センリもお腹が空いてきていた。


『うん!お腹すいたし早く帰ろう!』


今頃一族を引き連れたイズナは集落に辿り着いているだろう。いつも通りのセンリを見て柱間は笑った。


『ねえねえマダラ、途中で休憩しようね。ほら、私おにぎり持って来たから。あとお煎餅も』


センリがマダラに駆け寄りそう言うとマダラは少々呆れた。


「その腰の荷物の中身は食い物だったのかよ…」


膨らんだセンリの荷物に目を向ける。入っていたのは巻物だけではなかったようだ。


『だってお腹空いちゃうでしょう!もう二時くらいになるよ?ね!』

「分かった分かった」


呆れながらも納得したらしいマダラが言う。まるで兄妹だ。柱間は幼い頃から変わらないセンリの姿に頬をほころばせた。


「今日は来てくれて感謝する。気をつけて、仲良く帰るんだぞ」

「じゃあ、帰るぞ兄者」


マダラとセンリに向けて手をあげる柱間。それに続いて扉間も二人を見て小さく頷いた。そして二人の姿は一瞬でその場から消えた。


「俺たちも帰るぞ、センリ」


マダラがクルッと反対を向く。しかしセンリはマダラの手を掴んだ。


「?」

『待ってマダラ』

「なんだ?」

『………――――やっぱりお腹すいたから、先におにぎり食べてからでもいい?』

「そんな事だろうと思った」

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