- ナノ -

-うちは一族と光の巫女-



『…ん、ん………』


次にセンリが目を覚ますと目に飛び込んできたものは陽の光ではなく仄暗い蝋燭の光だった。センリは頭をもたげると前回よりすんなりと力が入った。

辺りを見るとそこは畳の上。どこかの家の中のようだった。センリは手を動かそうとしたが、手が後ろに縛られていて動かない。


「目が覚めたか」


暗闇の中から声。しかし先ほどの少年のような声ではなく、低い、殺気のこもった声だ。

センリが目を凝らす。人の足が見え、頭を上げて見上げると男の顔が見えた。その目は仄暗い中で紅く爛々と不気味に光っていた。


『それは…写、輪眼…』


センリはその瞳に大きく見覚えがあった。これまで幾度と無く見てきた赤い赤い瞳だ。


「写輪眼を知っていますか。貴女…一体どこの一族の者です?目的は?答えようによってはここで、」


男がセンリの頭上に座り込み、クナイの様なものをセンリの首に当てる。


「…死にたくなければ正直に答えよ」

その言葉は冗談などには聞こえなかった。首に冷たい刃が当たるが、センリは冷静そのもので、死への恐怖はなかった。


『私の名前はセンリ……。大筒木センリ』

センリはその見慣れた眼をしかと見つめる。男は考えるように黙り込む。センリが臆さぬことで普通の人間ではないことが分かった。クナイをつかむ手に力が入る。


「大筒木…?聞いたことがありませんねそんな一族。見たところ普通の人間ではないようですし…おそらく忍。この写輪眼には偽りは通用しない。このおぞましい程のチャクラ……今まで見た事も無い。一族を抜け、又はこの戦乱で壊滅し、独りで動いているということですか?」

センリはぽかんと口を開ける。まったく何を言っているか分からないといった様子だ。


「…私の質問に答えなさい」


センリが返事をしない事に男は目を細める。首元でクナイがより近付けられ、蝋燭の明かりに反射し光る。


『ちょっ、ちょっと落ち着いて!』

「落ち着くのはそちらの方です」


センリが慌ててジタバタするが男は動じない。縄抜けなどセンリは知らなかったので硬い縄が余計手首に食いこんで痛い。


『ほんとによく分からないの!忍って一体なに?忍者?せ、戦乱って…どういうこと?』


男はその言葉の真意を探るようにセンリを見る。
助かるための嘘か?―――
しばらくその様子を見ていたが、目の前にいる女は本当に動揺しているように見えた。


「まさか………忍ではなく、本当にただの人間でしたか?それとも忍という存在を知らない、強力な力を持った…――――いや、忍を知らない人間がいるなんて思えません。あなた一体何者です?」


男は、センリには敵意が全く無いことは感じとっていた。忍であれば他の一族に捕まったらすぐ自害するか、何とか逃げようとするかするはず。無抵抗に、分からないなど言うはずがない。


「私の息子が今日、あなたが突然空から降ってきたと、言いました。どういうことです?」


センリが記憶をたどる。そしてなにかわかったようにあっ、と声を出す。


『ハゴロモ!大筒木ハゴロモって知ってるでしょ?忍宗を広めてる……あっ、六道仙人って言えばわかるかなあ。この世界ではすごく有名な人だから、わかる…よね?』


今度は男が混乱する番だった。まるでわけがわからない。

「六道仙人だと?それは神話の中の人物です。あなた、一体何を言っているのです?嘘をつくならもっとマシなものにした方がいい」


男の言葉にセンリが驚く。しかし男の目はいまだに真剣だ。


『神話って………私また別の世界に来ちゃったの?カルマも私の中にいないし…』


センリは男から目線を外し、呟く。男はさらに混乱していた。

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