-見せ合えたハラワタ-



『みんなも…ごめんなさい。紛らわしいことして』


センリがうちは一族の者達に謝る。しかし未だに状況がよく飲み込めていないようだった。


「センリ、訳を…」


眉を下げて柱間が小さく言う。柱間の喉元の小さな傷は既に消えているようだった。


『ええっと……柱間の腑を見るにはこうするしかないかな、と…』


申し訳なさそうに柱間を見上げてセンリが言った。まるで殺気の欠片もない。


「兄者を殺そうとして、その反応を見て本気かどうか気持ちを確かめたというのか?」


蔓から解放された扉間は未だに警戒しているようだったが、なんとか状況を理解したようだった。


『そういうことデス』


若干片言になるセンリ。一族たちもセンリの心理が徐々に分かってきた。センリは柱間を試したのだ。本気で同盟を組む気があるのか。その場の本当の気持ちを知るには仲間も騙さなければならなかった。


『柱間が本気なのは分かったよ』


センリが柱間を見上げる。その目はやさしかった。


「だけど約束を破り一人で来なかったのも事実だよ、姉さん」


イズナが厳しい声でセンリに向かって言う。確かに一人で来いと返したにも関わらず扉間が着いてきていたのはうちは一族の者達にとっても疑心だ。しかしセンリは笑っている。


『誰か付いてこなかった方が信用出来ないよ』


センリの言葉に皆疑問を感じる。


『柱間が誰にも今日の事を言わないでいたのなら一人で来たはず。柱間はこの事を一族に話していたからこそ扉間くんが着いてきたんでしょう?柱間は着けられていたのに気づかなかったみたいだけど…』


扉間はどうやらかなり距離を取って兄を尾行していたらしく柱間はそれに気付かなかった。


『敵対する一族と協定を結ぶっていうすごい重要な事を自分たちの仲間に言わないで、独断で行動する長がいる一族なんて信用出来ないでしょう?柱間はこの事を仲間達に言った。そしてみんなは納得して柱間を送り出した。扉間くんは着いてきたけど……』


センリが微笑んで柱間を見る。確かにセンリの言う通りだった。柱間はその日の朝皆に送り出されて来たのだから。


「そう言うが随分本気で兄者を殺そうとしていたようだが?」


扉間は腕を組みじとっとセンリを見る。柱間とは違い警戒心が強い扉間は手放しでセンリの話を信じなかった。現に、自分に向けられた殺気だってとても作り物だとは思えなかった。


『この一週間そればっかり練習してきたからね!めちゃめちゃ大変だったよ…』


センリがコソコソしていたのはこれだったのかとイズナはその時分かった。確かに咄嗟にセンリがあんな行動に出るとは思えない。
緊張感の欠片もなくぐったりするセンリを見て柱間は安心した。やはりセンリはセンリだった。


『それに』


センリは立ち竦むマダラを見やる。


『マダラは絶対に止めてくれると思ってたから』


無条件に信頼している者への笑み。マダラは、あの殺気が本当のセンリのものではなかった事の安堵感なのか、センリにしてやられた事に対する憤りなのか、柱間が本気だと言うのが分かった安寧なのか、よく分からなくなってきた。


『休戦協定、結んでくれるよね。マダラ』


穏やかなセンリの口調。先程のような、命令するでもなく指図するでもなく、ただマダラにそっと話しかけた。

突然、戦を続けるのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。センリはそんな事望んでいない。柱間にも扉間にも仲間を何人も殺されたのに。それをセンリは見てきたはずなのに。それを笑って許している。


「………ああ」


うちは一族の長が協定を受け入れた。

皆もほとんど同じ気持ちだった。本当はもう疲れていたのだ。戦いの世に。長として、マダラもその事は感じていたし、センリの思いもわかっていた。


イズナは兄の背中を見るが、その顔が見えないので何を思っているのか分からなかった。


『よしっ、改めて交渉成立です。柱間』



センリが千手一族の長の顔を見れば感動を隠しきれない様子だった。


「センリ…マダラ……」


戦で顔を合わせる度に戦っていたかつての友。その友は戦場では見せたことの無い柔らかい表情をしていた。なんとも言い難い感情がトクトクと柱間の心臓に響く。


『ちゃんと皆の前でお披露目しないとね!柱間…三日後、今度は私たちがあなたたちのところに行く。そこできちんと協定成立の証を結ぼう』


ここまで来ると扉間も状況を受け入れるしかなくなった。ため息を吐く。


「分かった。帰ったらすぐに千手の領地の場所を知らせる返事を書こうぞ」


柱間が大きく頷く。


『殺そうとして本当にごめんね。首、痛かったでしょ』


まるで争っていた者達とは思えなかった。うちは一族の者達は少し混乱して来た。自分たちは本当に何をしてきていたのだろうか?うちは一族を守ってきたセンリと力を一番として考えていたマダラが、仇の一族を許したのだ。これでもう戦うことはなくなったのだ。


「いや、大丈夫ぞ」


首の痛みなど柱間はどうでもよかった。これでもう多くの犠牲を出すことは無いのだ。そう思えば、他は何でもよかった。


『来てくれてありがとう。それじゃ…三日後』


センリはマダラの元に駆けて戻る。マダラの隣から柱間と扉間に手を振った。マダラの目は写輪眼ではなかった。


良かった。
本当に、良かった。
柱間は帰路についているときその思いだけが頭を包んでいた。

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