- ナノ -

-見せ合えたハラワタ-



「やめろ!」


ヒュン、と鋭く風を切る音が聞こえ、柱間が死を覚悟したその時。慌てたような叫びが聞こえたと思ったら、クナイの刃先は柱間の首元の皮先一寸ほどでピタリと止まった。僅かに血の玉がクナイの先にぷくりと膨れた。柱間が閉じていた目を開くとまだ自分は生きていた。


センリは動かず、その声主を見ずに刃先を止めたまま柱間を見下ろしている。その場にいた誰もが何故か安堵に胸を撫で下ろした。しかしその様子を驚きにも満ちた目で見ていた。


「センリ、お前がしたかったのはこんな事じゃないだろう」


それを止めたマダラが一歩進み出てこちらを見ようともしないセンリに向かって言う。


「俺は……」


マダラは一瞬口を閉じる。
イズナは何故兄がそれを止めたのか分からなかったが、しかし自分の知らないセンリが、綺麗だったセンリがそんな理由で目の前で柱間を殺して欲しくないと咄嗟に思っていた。

センリの手は一寸の震えもない。柱間が驚愕して目だけをマダラに向ける。


「柱間の……腑は、見えた」


先程より些か小さな、しかししっかりとした口調でマダラが言った。どこか切願した表情にも見えた。柱間はその言葉に唇をピクリと動かす。



『マダラ……柱間が一人で来なかったら殺すって言ったよね?』


凍えるような声。やっとセンリは少し顔を動かしてマダラを見た。扉間は何が何だか、何故マダラがそれを止めるのか困惑していた。自分の知るマダラは好戦的で残虐で人を殺すことに躊躇いもないし、人が人を殺すのを止める人間でもない。


「…お前は本当はそんな事がしたいんじゃないだろ…!」


マダラだけには分かっていた。共に過ごし、気持ちを共有しているからこそ分かっていた。

柱間が協定の為に本気で殺されようとしたこと。
センリは心からそうしたかったのではないこと。


「その手を下ろせ、センリ………柱間を殺さずとも協定は結ぶ」


マダラの出した結論に柱間と扉間が全く同じ表情をした。


「………」


センリはマダラの言葉の真意を確かめるようにその赤い瞳をじっと見つめる。センリの射抜くような金色の瞳をマダラも見返した。数秒、誰もなにも言わなかった。声のないマダラの言葉がセンリにひしひしと突き刺さる。無言の時間。


ふ、と。

辺りを取り巻くきつい、鋭利で研ぎ澄まされた殺気がゆるむ。扉間が体に力を入れるとピクリと動かせた。突然まともに酸素が入ってきて呼吸を整える。


『〜っ、あーっ!』


なんの前触れもなくセンリがクナイを放り投げ柱間から降りてその隣にヘナヘナと座り込む。全身の力が抜けたようにクタッとしている。扉間を氷らせていた塊は逆再生するように消えていき、体の自由が戻ってきた。服は濡れてはいない。

その場の全員が呆気に取られて口を開きながらセンリを見つめている。


『あーっ、緊張した』


センリが長くため息を吐いている。その口調はいつものセンリで先程までの冷たさが嘘のようだ。柱間が手をつきゆっくりと上半身を起こし、身に起きたことを整理した。


「………オレを試したのか?」


柱間が何故かぐったりとしているセンリに向かって問いかけた。マダラも呆然とその様子を観察している。


『ごめんね、柱間。扉間くんがいなくても……柱間が一人で来たとしてもこうするつもりだったの』


数分前とは売って変わり、微笑みながらセンリは立ち上がって柱間に手を差し出す。柱間はその小さな手を取り、同じく立ち上がった。まだ少し足が震えていた。


「…どういうことだ?」


訳が分からなくなったマダラがかなり眉をひそめている。扉間もイズナも、うちはの者達もまったく同じく感情のようだった。

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