- ナノ -

-見せ合えたハラワタ-



「…!?」


一瞬と言うにも遅いような、極めて短い刹那の時。微かな風が吹き抜けたかと思うと次の瞬間マダラの目に入ったのは、柱間の前に立ち、その喉元にクナイを突きつけるセンリの姿。柱間はおろか、写輪眼のマダラでさえ見抜けないほどのスピードだった。うちは一族の者達も呆気にとられ、何が起きたのかと状況を理解しようとする。

柱間は何か言おうとしたが少しでも喉を動かせばセンリのクナイが突き刺さる刹那の距離だ。


『柱間………約束、破ったね?』


センリの目は柱間の後ろに広がる鬱蒼とした森に注がれていた。見たところなんの変哲もなかったが、センリには分かった。柱間の背を冷や汗が一筋伝った。

「どういうことだ?」


そう言ったのはマダラだ。訳が分からずセンリに問いかける。自分の頭上にある柱間の喉にクナイを突き付けたままセンリが一瞬チラリとマダラを振り返る。


『………扉間、くんだね』


そして再び森に顔を戻し、誰に言うでもなく呼びかけた。


「!!」


柱間は微かに目を見開く。まさか、と思うのと何故、という感情が一気に心に押し寄せる。
一瞬、何も無いように思えた。数秒の間しん、となんの反応もない森にマダラさえもセンリが何か間違ったのではないかとさえ思い始めた時だった。


「!?」


少し遠くに見える木々の影が揺れたかと思うと、センリの言った通りの人物が姿を現した。


「センリ…!」


扉間は兄にクナイを突き付けるセンリを激しい目付きで睨んだ。しかしセンリは動じずに、少しだけ柱間の首元からクナイを移動した。


「扉間…!なぜ付いてきた!」


その瞬間息せき切って言葉を発する柱間。柱間は扉間に背を向けていたがその声は確かに弟のものだった。


「裏切ったのか!?」


うちは一族の誰かが叫ぶ。マダラも口を固く結び、その腰に指してある鞘に手をかける。マダラの中で徐々に膨らんでいた協定への想いが一気に散った気がした。


「扉間!あれ程着いてくるなと言っただろう!」


声を荒らげる柱間。動こうと思えば出来たかも分からないが何せ目の前にいるのはセンリだ。迂闊に動いてもすぐに気付かれるのは目に見えていた。扉間は忍装束で甲冑を纏っている。


「兄者、万が一だ。まだ協定を結ぶ前。今は只の敵対する一族。その領地に一人で丸腰で行くなど…」


扉間はうちは一族を信用していなかった。十中八九、柱間を呼び出し、抹殺する為の罠だと思っていたのだった。



「扉間……っ」


イズナは扉間を睨みながら呟いた。イズナが一度死んだのは…写輪眼を使えなくなったのは扉間のせいと言っても過言ではなかった。憎き相手が今そこにいるのに手を出せないという感情をどうにか噛み殺す。


『柱間…』


柱間がセンリの方に目を向けようとした時、センリが突然柱間の足を掬いその場に引き倒した。固い地面に柱間は受け身も取れずにそのまま打ち付けた。鈍い音と共に、その衝撃に一瞬声が出なくなる。



「!?」


センリの動作の速さに扉間も反応が遅れる。センリは柱間を掬い倒したかと思うと次の瞬間には柱間に馬乗りになっていた。


「っ……!」

『扉間くん、動かないで』



柱間の首を左手で押さえつけ右手でクナイを扉間の方に向ける。扉間は一歩動かそうとした足の動きを咄嗟に止めた。

マダラもそうだったが、他のうちは一族の者達はセンリがそのような行動に出るなんて思いもしなかった。誰も動けなかった。今のセンリから漏れ出る殺気はそこにいる全員を凍りつかせるほどのものだった。


『私たちはここに柱間…あなた一人で来てと言ったはずだよ』


センリは軽いはずなのに、それにも関わらず柱間はセンリから逃れられなかった。感じたことも無い畏怖がセンリからビリビリと伝わり、なぜだか体が震えた。

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