- ナノ -

-見せ合えたハラワタ-



約束の日。
偶然か必然か怖いくらいの快晴である。秋晴れの青一色が頭上に拡がっていた。


うちは一族の集落の出入り口でセンリ達は柱間を待っていた。センリの隣にはマダラが立ち、その後ろにはイズナと、千手に亡命せずうちはに残った多くはない忍たち。一体柱間はここに来るのか、約束通り一人で来るのか、それとも…。皆それぞれ違った思いで目先に広がる森を眺めていた。


『もう正午くらいだよね』


センリが真上にある眩しい太陽を見上げながらマダラに言う。センリの言う通りたったいま十二時の針が同じように真上を指していた。


「…!…センリ」


森を見ていたマダラが森から目を離さずに小さく呟く。センリも気付いて同じ方向を見る。後ろに立つうちは一族の誰かが「来た」と囁いた。徐々に近づいて来る、戦場で何度も感じたその気配にイズナは刀を抜きたい衝動をぐっと堪えた。


千手柱間は約束通り甲冑を纏わず、忍装束ではなく普段着であろう袴姿で、その時間に姿を現した。武器を装備している様子はない。見た所は完全に丸腰だ。

そしてこちらに歩いてくるのは柱間一人。センリは周囲を感知してみたが、どうやら近くに千手の者はいないようだ。


柱間はやや足早にうちは一族の皆の前に歩み寄る。警戒していない訳では無いようだったが、柱間らしくその距離は近い。

柱間はセンリを見て微かに驚いた。実際のところセンリは四年も眠っていた上その前も少々戦場に出向いていなかったのでその姿を見るのは久々な気がした。


「しばらく姿を見なかったが生きていたか、センリ」


うちは一族の皆の前に立ち、柱間が前に進み出ているセンリに言った。その声はいつも通りで、落ち着いているように思えた。


「気安く姉さんの名前を呼ぶな」


センリの後ろからイズナが威嚇するように唸る。


『イズナ…!』


センリは振り返り、制するように小さく名前を呼ぶ。イズナは舌打ちをして柱間を睨み付けたまま押し黙った。マダラも腕を組みじっと柱間を見つめている。


「…約束通り、休戦協定の返事を聞きに来た」


気にしていない様子で柱間が続ける。センリが小さく一歩進み出た。


『柱間一人で来たの?』


センリの口調もいつも通りだったが、その顔は真剣そのものだ。柱間はマダラではなくセンリが進み出たことによって何かセンリに考えがあるのだろうかと微かに感じた。


「一人ぞ。お前たちがそうするようにと返事に記したんだろう」


柱間はセンリの考えを探るようにその目を見つめるが珍しくセンリはなんの反応も示さなかった。なぜこの数年センリが戦場に出なかったのかも柱間には分からなかった。


『そうだね………で、休戦協定には千手一族の人たちは賛成してるの?』


センリとマダラが言ったようにうちは一族の者達は攻撃する様子はない。しかし柱間を見るその目は写輪眼で、そして忍装束。ここで一斉に奇襲されたらさすがの柱間でもかなり厳しい状態になる。柱間はうちは一族の様子を伺いながらも休戦協定だけは絶対に結びたかった。


「ああ、もちろんだ。皆、この戦いの終わりを望んでいる。うちは一族と同盟を結ぶことも了承済みだ。一族の者達には、今日休戦協定を結んでくると言ってある」


柱間は本気のようだった。センリはその目を見ればすぐ分かった。しかしうちは一族の者達はそうもいかない。攻撃こそ仕掛けないもののセンリの背中に感じるくらいの殺気を放っている。


「…お前たち千手は、ほとんどうちはに殺された。そしてお互いこの長く続いてきた一族の戦いの中で仇の一族同士。それを分かっているのか?」


そう鋭く問いかけるのはマダラだ。マダラは遠く昔の記憶を思い出していた。確か柱間の弟たちはうちは一族に殺されたと言っていたはずだ。


「親の仇であり、兄弟の仇であり、一族の仇である。その一族と、お前は本当に協定を結べると言えるのか?」


マダラと柱間の視線が交わる。
偶然か、柱間も幼い記憶を辿っていた。確かに家族はうちは一族に殺された。悔しかったし、憎まなかった訳ではない。しかし柱間の気持ちは揺るがなかった。


「…それは重々承知の上だ。オレは死んでいった仲間の為にも、この戦いを終わらせたい。この協定を結ぶ事こそがそれに繋がると信じている」


信じている。
いつもセンリが口にする言葉だった。強い瞳。マダラはそれに何故かセンリの姿を重ねていた。目の前にある、自分より幾分も小さな背中。なのに誰よりも強い意思で凛と立っている。


『……うちは一族がその協定を結ばないと言ったらどうするの?』


センリの言葉に柱間がピクリと反応する。マダラも少しまゆを顰めてその後ろ姿を見つめる。


「イヤ…お前たちはきっとこの休戦協定を受け入れる。一族を守りたいのならそうするはずだ」



一時の静寂。

センリは柱間を見つめたまま何も言わなかった。マダラもセンリの意図がわからずにその姿を見たまま動かない。森の木々からバサバサと複数の鳥達が飛び立っていく。

そして次の瞬間の光景は本当に一瞬だった。

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