- ナノ -

-うちはマダラ-



ふ、とセンリが少年を見やる。内側から発光しているのでは無いかと思うような不思議な、嘘のように爛々と輝く金色が少年の黒い瞳とかち合った。一瞬、辺りに流れる時が、止まってしまったようだった。

少年は金色の瞳から目を離せなくなり、金縛りにあったように固まった。どうしてか声も出せず、身体の中で動くのは、眼球だけだった。


「…!」

センリは泣いていた。

何故涙が出るのかは分からなかった。大粒の涙が、センリの感情などまるで無視したように溢れ出て、ぽたり、ぽたりと石達を濡らしていた。まだ頭の中が、モヤがかかったように曇っていて、その中でたくさんの感情が散らばっていた。それをひとつに纏める事が出来なくて、ただ、それなのに涙だけが止まらなかった。


少年はその姿に崇高な何かを感じていた。センリの頬に一筋、涙が輝く。美しさに見とれた。まるでこの世界のものとは思えなかった。


『イン、ドラ…?』

センリは少年を見つめ、まさかというふうに目を見開く。そしてゆっくりと立ち上がり、少年に向かう。少年はまだ、動けなかった。

いや、動かなかった。身震いする恐ろしさからくるものではなく、この時間が、どうしても必要な気がしていた。どうしても、動いてはいけない気がした。

ふと、近付いてきた腕が少年を包む。ふわり、と、花のような香りがした。


「……」


少年は抵抗することなく、センリの腕に身を任せた。心臓の奥が、ふんわりと温かくなったようだ。本当に不思議だった。心地良さすら感じた。

「(なんだ……この感じ…)」

センリは小さな少年の体をぎゅっと抱きしめた。優しく、優しく。


『ごめんね』


少年が眉を顰め、咄嗟に腕を動かした。
センリが突然謝ったことにもよるし、その体の力が抜け、崩れ落ちたからでもある。少年は自分よりも大きなその体を、しっかりと抱き留めた。その体は温かかった。

センリはまた気を失っていった。

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