- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-事件発生とオビトの弟子入り-



九尾襲来があってから三年の間で、里はほとんど元通りになっていた。

ヒルゼンが息子のアスマと意見の相違でぶつかり、アスマは旅をするため里を出てしまっていたが、ヒルゼンはそれ程心配はしていない様子だった。マダラからもめぼしい情報はなかったが、その分里も安定していた。

しかし、桜も散りゆく季節になった時、その兆候が出てから事件が起きるまでは大した時間はかからなかった。

木ノ葉に出入りしている野菜売りの行商の一人が岩隠れの諜報部隊であるという事実が浮かび上がり、同時に大きな事件も起きていた。



扉間部隊がクーデターに会って以来、敵対関係にあった雲隠れの里の忍が木ノ葉と同盟を結ぶ為に里を来訪していた。ヒルゼンもセンリもその事実に安心していたが、その日の夜日向一族の宗家の娘が何者かによって誘拐されそうになるという事件が起きたのだ。

日向一族宗家の当主、ヒアシがすぐにそれを見つけて犯人を抹殺し、事なきを得たが、混乱はそれからだった。


宗家の娘であるヒナタを誘拐したのは雲隠れの忍だった事が判明し、状況は大きな問題に発展。自里の忍を殺された雲隠れは平和条約を盾に、日向家宗家の死体を寄越せと理不尽な条件を突き付けてきた。

あまりにも理不尽だったが、この事により戦争をしたくないという思いもヒルゼンの中にはあった。日向一族の上役も巻き込んで緊急会議が開かれたが、そこで日向ヒアシの双子の弟、分家の忍であるヒザシが自分が代わりになると言い出した。


日向一族は一族内のしきたりが多く、火影ですら踏み込めない事情もあったが、これにはセンリは反対した。


『あなたが代わりに死ぬことないよ、ヒザシくん…!もう一度私が雲隠れと取り合ってみる。だから…―』

「センリ様に御迷惑をおかけしたくはありません」

『迷惑なんかじゃないよ。何か解決方法を考えよう』


兄と瓜二つの表情でヒザシはセンリを見た。その顔は何故か微笑んでいて、どこか決意に満ちていた。


「ありがとうございます、センリ様………ですがこれはわたしが選択できる唯一の事なのです」

『ヒザシくんは望んで命を絶つっていうの?』

「はい」


弟の決断にヒアシも顔をしかめていた。


「わたしに行かせて下さい」

「ヒザシ……」


本当にそれが弟の望んだ事なのかはヒアシには分からなかったが、その決断にはヒルゼンも頷くしかなかった。


『ヒザシくん!』

「センリ様、わたしのような人間に情けをかけてくださって、ありがとうございます」


ヒザシはセンリに背を向けたままそう言った。センリを止めたのはヒルゼンだった。


「行かせてやってくだされ、センリ様」

『でも、』

「これで里間の争いを避ける事が出来るのです。それに、ヒザシの意思を、どうか尊重してやってくだされ…」


今までにないヒルゼンの真剣な制止だったが、センリは中々引き下がらなかった。日向の者達の圧には目もくれずセンリはヒザシの白灰の瞳を正面からじっと見つめた。


『簡単に頷けるわけない。目の前で仲間が自ら死を選ぼうとしているのを、黙って見ているわけにはいかない』

強い眼差しだった。燃えるような金色を見つめ、ヒザシの目が驚きに見開かれた。余りにも強い言葉と眼差しに、その場にいた誰もが驚きを隠せずにいた。


『ヒザシくん、あなたは日向一族である前に一人の人間だよ。同じ里の仲間を……止められる死を、見逃す訳にはいかない』

「センリ様……」


ヒザシの瞳が、キラリと光った。そしてヒザシは穏やかな笑みを浮かべた。


「わたしなどの事をそんなふうに言って下さって、本当にありがとうございます。しかし、わたしは行きます」

『ヒザシくん、』

センリは眉を寄せたが、ヒザシは微笑んでいた。


「これは、わたしが自由に選べる道なのです。今しか…………今この時、わたしは自ら道を選びたい。これから先、わたしが進まねばならぬ道は決まっております。だからこそ、自由になりたいのです」


そう言うとヒザシ床に座り込み膝をつき、センリに向かって頭を下げた。センリは驚いて自身も膝をつく。

「分家であるわたしならば、死んだと同時に白眼の効力が失われます。雲隠れに一切の力を渡さずに済む……やっと……やっと、何も出来なかったこのわたしが、里のために一族のために出来る唯一の事なのです。どうか……どうか、お願いします」


センリはそれ程までにヒザシが強い思いでいることには気付かなかった。偽りでなく、ヒザシは心からそう言っている事はいくら鈍感なセンリにも痛い程に伝わっていた。


「センリ様、ワシからも頼みます……」


ヒルゼンにも頭を下げられ、それからヒアシも納得したとなればもうセンリは何も言う事は出来なかった。


結局木ノ葉隠れは、ヒザシの死体を宗家と偽って差し出す事で何とかこの事態を乗り越えたのだ。
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