- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-育ての母として-



この頃のセンリの仕事は、ナルトと過ごす時間を取るために、いつもより分裂体の方に長く仕事を任せていた。ただ数ヶ月働きっぱなしにしていると本体の方にも影響が出るため、孤児院事業の方にはあまり時間を割く事が出来ていなかった。

だが里内、里外の孤児院は共に優秀で信頼出来る者が院長を勤めていた為、センリはそれ程心配していなかった。



里内に不正に侵入しようとした国籍不明の忍の尋問を終えた後、センリはナルトの家へ向かおうとしていた所、途中火の国の孤児院の院長とすれ違い久方ぶりの会話をしていた。孤児院経営の方は上手くいっているようでセンリは安心した。



「孤児院がこうして経営出来ているのもセンリ様のご支援のおかげです。本当にいつもありがとうございます」

『いやいや、そう言ってくれるのは有難いけど、これは私の力じゃなくてノノウちゃんや孤児院の他の先生達が頑張ってくれてるからだよ!こちらこそありがとう!』


薬師ノノウはまだ二十代の若い元くノ一だったが、心優しく、何よりも子どもを大切に思っている事をセンリは知っていた為、心から信頼していた。

軽やかに笑いながら胸の前で両手をブンブン振るセンリを見て、ノノウは眼鏡の奥の瞳を下げて微笑んだ。どこか切なげにも見えた。



「そういえば……実はこれから少し孤児院を離れようと思ってるんです」

『えっ、そうなの?どうして?』

「私の跡を継いでくれる人が出来たので……私自身、他の国の孤児の保護施設なんかを巡って、少し勉強してこようかなと思ってて」



ノノウは穏やかに言った。センリはウンウン頷きながら納得する。


『なるほどね。ノノウちゃんは本当に子ども達の未来の事を考えてくれてるんだね!』


センリの言葉に、ノノウは少し困ったような笑みを浮かべた。


『いつから行くの?』

「一ヶ月後くらいに出発しようかなと思っています」

『そっか。紛争中のところもあるから、気をつけてね。それから、私が知ってる保護施設をまとめてある地図があるから、今度それを渡しに行くよ!』

「それは……本当に助かります」



ノノウは少し安堵したような表情を浮かべた。しかしやはりいつもよりどこか寂しげだ。やはり孤児院を離れるとなると子ども達の事が気がかりだろう。センリはノノウの気持ちを思い、その背中をトンと優しく叩いた。



『孤児院の子達はノノウちゃんの事を心から応援してくれてるよ。私もたまに覗きに行くから、あんまり心配しないで!』


ノノウはにっこりするセンリの顔をじっと見つめた後、小さく頷いた。


「センリ様、子ども達の事を……どうかよろしくお願いします」


ノノウはセンリの右手を取り、両手で弱く握りしめた。センリはノノウを安心させるように大きく頷いた。


『分かった!次の院長さんともよく相談し合うからさ』

「ありがとうございます。それでは……また」


ノノウは最後にセンリの顔を記憶するような仕草で見つめ、お辞儀をしてから去って行った。センリは、何秒間かその姿に向かって手を振り、ふとナルトの所へ行く事を思い出した。



『あっ、離乳食の作り置き、あったっけ……』



センリが見られない時の昼間は、暗部の監視付きで家政婦がナルトの世話をする事もあったが、センリがいない時の泣き叫び具合といったらもう手が付けられないくらいだった。

早く独り立ちをさせたいというヒルゼンの意向に沿って、センリはなるべく何でもナルトにやらせるようにしていたが、結局は夜眠るまで側にいてしまう事が多かった。

それでもナルトは成長するにつれてどんどん自分で動けるようになり、ナルトが二歳になり走り回れるようになると、途端に色々な言葉を喋り出すようになった。

センリ、という言葉も最近やっと発音できるようになり楽しくて仕方が無いようだった。


しかしそれにつれて里内の人々の視線が突き刺さるようにもなっていた。九尾襲来事件の全貌を知らない者達は多く、「ナルトは九尾の妖狐を封印されている」「あいつのせいで四代目が死んだ」という情報だけが独り歩きしてしまっている。

特に忍でない一般の者はほとんど事件の内容を知らずにいた。上役の忍や、古参の暗部、それから一部の上忍などは「ナルトの父親が四代目火影である」という事実を知っているものはいるものの、事件があった当時、ミナトとクシナの死を目の当たりにした者以外は詳しい状況は知らぬままだった。

敵意を剥き出しの者に対しては、センリが自らナルトを擁護するような言葉をかけることもあったが、それもその場しのぎに過ぎないのが実情だった。

センリ自身、他者の敵意に気付きにくいせいもあり、里の者全員を納得させる事は、今の状況では無理なのではないか…と、特にヒルゼンは考えていた。


ナルトの側にセンリがいるという事は里の者達にとっても不可思議この上ない事でもあった。忍の者や、センリの事を知っている者達は、センリがナルトと共にいる時は笑顔を取り付ける事もあった。


周囲の声にはあまり気が付いていないセンリだったが、例え何を囁かれていたとしてもナルトの世話をやめるつもりは無かった。



「センリ!きょうはいっしょに、ねてくれる?」

『ん、分かった。いいよ!昨日と一昨日はちゃんと一人で寝られたもんね』

「やったあ!」


センリが自分の本当の母親ではないという事は家の小さな仏壇を見てナルトも理解していた。しかし本当の親子のように二人は過ごしていたし、ナルトもそれに満足はしていた。
センリが忙しいとナルトは薄々気付いていて、家に来ない日は心細く寂しかったが、その分センリと過ごせる時間が嬉しかった。


「じゃあ、いえまでどっちがはやいか、しょうぶする!」

『えっ、あっ、こら待てナルト!』


傍から見たら本当に親子のようにしか見えないだろう二人の様子を、里の人間達はいつも不思議そうに、少し遠巻きに見つめていた。忍の子ども達も同様だった。

ただ、ナルトとの生活がセンリにとって大切なものとなっている事だけは、変えようのない事実だった。
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