- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-ミトの最期、忘れられた記憶-



安らかに息を引き取ったミトの葬儀は、密葬だった。ミトの存在を知る者は今では少なかったが、それでも友に看取られて死んでいったミトは、非常に幸せそうな顔をしていた。



センリは自宅の部屋でミトの封印札の簪を眺め、思い出に浸っていた。ミトと最初に会ったのはもう四十年以上前の事だったが、センリの記憶には鮮明に残っていた。


「…随分増えたな」


座り込むセンリの後ろからマダラがやってきて側に腰を下ろした。センリは一つの箱の中身を眺め、頷いた。

これまでに亡くなった仲間達の遺品が詰まった遺品箱は二つ目で、大きめの救急箱程の大きさだったが、今はもうそこに収まりきらないほどの形見が入っていた。

柱間が戦国時代に愛用していた額当て、イズナやヒカク、桃華が使っていた髪留め、扉間の飛雷神のクナイ、うちは一族の服の家紋を切り取った布、首飾り、腕輪、古びた手裏剣、耳飾り……ーー。

これまで死んでいった仲間達の遺品が、そこにはたくさん詰まっていた。


『私達には、こんなにたくさん大切な人がいる』


センリはそこにミトの簪をそっと入れた。
後悔や無念の思い出としてではなく、大切な思い出としてセンリはその箱の蓋を静かに閉めた。


「お前は、いつまでも心優しいな」

『そんな事ないよ。普通だよ…』


センリは俯いたまま曖昧に笑って言った。マダラはいつも自分を優しいというが、センリはそうは思わなかった。


『私の、わがままな思いだよ』


小さな声だったが、その言葉に込められた悲しみに気付いたマダラは、細い肩を抱き寄せた。
死にゆく者の前では、どんなに悲しかろうとその者の心を思い寄り添う事を第一に考えているセンリが、本当はどんなに心を痛めているのか当然分かっているマダラは、優しく語りかけた。


「その思いが、人々にとっての救いだ。死んでも尚、こうしてお前に忘れずにいてもらえるのなら、皆喜んでいるはずだ」

『マダラ……』


髪を撫でる手が優しくて、センリは目頭が熱くなってマダラの胸に顔を押し付けた。一番安心する匂いと温度に、溢れ出る涙を、堪える事は出来なかった。


「親しかった者が死ぬのは辛い。我慢する事は無い。お前はいつも俺にこう言うだろう。その思いで俺も救われている。我慢するな。悲しみはこうして分け合えばいい。俺が貰ってやる」

『うん………』


マダラのあたたかい体に寄り添っていると不思議な事に、友を失った悲しみがどんどん消えて行く気がした。


『ありがとう、マダラ…』


センリの言葉にマダラは何も返さずに、しばらくその体を抱き締めていた。

ミトが死んだ悲しみをしかと貰い受けるまで、マダラはその体を離さなかった。


『ミトの思いも、必ず私達が受け継いでいく』

「もちろんだ」


悲しみがあれど、センリがその感情だけに浸かる事は無かった。

センリの友が無くなった事など他の人間は知り得ない事だ。だがセンリは、いつでも周囲の人間に心配をかけるような顔は見せなかった。

悲しんでいても、泣いていても、どうしたって時間は進んで行く。弱さを見せられる場所が一つでもあるなら、それはセンリにとって、とても幸せな事だった。前に進む事が出来る、大きな力だった。


『ミトは……みんなに会えたかな』

「今頃皆でこちらを見ながら語り合っているかもしれんな。柱間は今まで好き勝手やっていただろうが、ミトが現れたとなれば随分焦るだろうな」

『ふふ……そうだね。扉間くんとイズナは相変わらず喧嘩してそうだし…それを見てきっと柱間は笑って、浅葱は焦って…桃華とかヒカクは…そこはそこで言い争ってそうだなあ。ミトは仲裁してくれるかな…』

「その騒動の様子が目に浮かぶようだな……」


マダラの優しい声と温もりに包まれて、センリは頬笑みを浮かべた。



『ごめんね、服…濡らしちゃった』

ふとセンリが顔を上げ、自分の涙で濡れてしまったマダラの胸元を手で拭った。


「気にする事はない。お前の涙を拭う事が出来て、この服も喜んでいるだろう」


自分を何とか元気付けようとしているマダラの思いやりを感じて、センリはもう一度『ありがとう』と呟いた。

そして再び逞しい身体に身を預けた。マダラの胸に耳をつけると、愛おしい、規則正しい鼓動が聞こえてきて、それがどうしようもなくセンリの心を落ち着かせた。



『……もう少し、こうしていてもいい?』


センリが小さな声で問いかけると、腰に腕が回されて、先程より少し強い力で抱き締められた。



「お前が望むなら、いつまでだってこうしてやる。今は何も考えるな」


マダラはセンリの額に静かに口付けを落とし、目元に残っている涙をそっと指で拭った。


センリは目を閉じ、マダラの温もりだけを感じていた。
痛みだって分け合える存在がある。その幸福を思えば、どんな辛い思いも乗り越える事が出来た。
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