木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-うちはイタチの独白-
アカデミーに入学して二ヶ月近く経ったけれど、相変わらず有益な授業を受けることが出来ずに、オレは毎日修業ばかりしていた。アカデミーには影分身が通っているから、別にサボっている訳じゃない。
家から少し離れた森の一角がオレの修業場だった。閑散とした森。静かで、よっぽどのことがない限り人が来ることはない。集中できるから修業するのにちょうどいい場所だった。
両手の指の間にクナイを四本ずつ持って、それを木のいたる所に掛けられた的目掛けて放つ。いつもみたいなカカカカッという音を立ててそれが黒い点に突き刺さる。
右斜め上…あそこだけ中心から一センチほどズレている。左手の薬指と小指のやつか……まただな。
ため息を吐いてクナイを回収しようとした時、後ろから小枝を踏む音が聞こえた。シスイかオビトさんが茶化しに来たのだろかと思ったけれどそこにいたのは驚いたような笑みを浮かべたセンリ様だった。
『うわあ、すごいねイタチ!』
本当に心からそう思っているみたいにセンリ様は目を輝かせている。センリ様の瞳にはいつも嘘がないから、それが少しだけ恥ずかしくて視線をに木々に逸らした。
「これ位…忍であれば出来て当たり前です」
謙遜するわけではないけれど、忍であればこの程度なら難なくこなせなくてはならない。
『そんなことない、すごいよイタチ』
センリ様はいつものようにオレの頭を撫でた。褒められるためにやっているわけではない。けれどセンリ様に『すごい』と言われると少し嬉しくて、少し気恥しい。
父や母に忍術の出来やアカデミーでのテストについて褒められることは多々ある。
「さすがオレの子だ」
「やっぱりあなたはお父さんの子ね」
二人ともオレを自慢の息子だと言ってくれる。嫌な気はしない。
でも、センリ様は……センリ様は、オレと父さんを比べることは一切なかった。
『うわあ、満点とったの?すごいよイタチ!頑張ったね!』
頑張るのは当たり前のことなのに、センリ様はいつもそう言う。まるで自分の事のように心から喜んでくれる。不思議な感じだ。
でも、それが嬉しかった。努力しているのを見てくれている。他の誰とも比べることなく、オレをオレ自身として、褒めてくれている。
テストで満点をとったからってそれで終わりじゃない。成績には百点以上の評価はない。それがどうしようもなく不満だったけれど、それを報告して、センリ様からの言葉をもらう度に何故か満足している自分がいる。
忍として最上級の実力を兼ね備えたセンリ様から褒められるということは、意味のあることだ。名誉なことだと、父ならそう言いそうだ。
少し考えるのをやめて、まだ感心しきっているセンリ様の顔を見上げる。造られたみたいに整った顔に、見てるこっちが笑ってしまうくらい綺麗な笑顔を浮かべていて、やっぱり何だか恥ずかしくなった。
『ホントに凄いよねぇ、イタチは。フガクがアカデミーでも一番の成績だって言ってたし……』
センリ様はにこにこしながらそこまで言って『ん?』と首を傾げる。
『えっ、あれ、イタチ。アカデミーは?』
途端に驚きの表情に変わってセンリ様は目を真ん丸にしていた。それが可笑しくてオレは僅かに笑い声を漏らした。
「アカデミーには影分身を行かせています」
『えっ!影分身が使えるの?凄いね本当に!』
センリ様は表情豊かだ。びっくりして目を見開いていたかと思ったら、すぐに嬉しそうな満面の笑みをする。オレよりも感情表現が豊かで、見ていてとてもおもしろい。
『影分身か……なるほどね。その手があったか――』
アカデミーに影分身を行かせて修業している事に少しも怒らずに、センリ様は真面目な表情で一人頷いていた。
センリ様はちょっとズレている。
その他の人間とは違うちょっとしたズレがオレはすきだった。
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