木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-うちはイタチの独白-
数ヶ月前、九尾襲来事件の時にもまたたくさんの人間が死んだ。
でもその後すぐにセンリ様が、重傷を負った人間も、なくなった街もさえも元通りにした。
その事があってから、オレは更にセンリ様に興味を持った。父に色々と話を聞き、センリ様についても新しいことがたくさん分かった。
その中でも“再生の女神”だとか、“救いの女神”などと呼ばれていると言っていたことが、印象的だった。父からはそれ以上のことは教えてもらえなかったけれど、何となくオレは分かった。どちらの単語も、まるでセンリ様のためにあるような言葉だった。
でも、それでも――センリ様程の人間がいるのに、この忍世界の戦いは止まない。
“忍は殺し合いのなかで生きる”という父の言葉が、オレは心から信じ切れずにいた。
忍達は殺し合う運命にあるのか。
忍術は戦いのためだけにあるのか。
……いや、きっと違う。
違うはずだ。
誰もが認める力があれば、争いをやめさせられるはずだ。どんな忍でも適わないくらい強い忍ならば、絶対に誰もが従ってくれるはずだ。
センリ様にも出来ないこと……それを成し遂げられるくらい強い忍に、オレはなりたかった。
それをセンリ様に伝えると、『そんな事を考えられるなんてイタチは偉いね』と褒められた。それが少し恥ずかしく感じて、オレはいつもみたいな、どっちつかずの曖昧な表情をとりつけた。
「センリ様くらい強ければ、忍達の争いを止めることができるのではないですか?」
その先のセンリ様の意見が気になってそう聞き返したけれど、言わなければよかったと思った。この聞き方だと「何で忍達の争いを止めてくれないんだ」という言い方に聞こえてしまう。慌てて言い直そうと思ったけれど、センリ様はオレを見て微笑んでいた。
『私一人がそうしても、意味がないんだ』
「…?」
どういうことか分からなくて首を傾げる。
『平和をつくるためにはみんなの気持ちが必要なの。私が一人でそれを成し遂げようとして強くなっても。意味がないんだよ』
センリ様の言葉をよくよく頭の中で考えてみたけど、やっぱりよく分からない。一人だとしても、誰をも凌ぐくらいに強くなれば、皆はその意見に耳を傾けざるを得なくなるのに。
「…センリ様は…忍という存在は、戦うためにあると思いますか?」
次のオレの問いかけに、センリ様は静かに首を横に振った。
『違うと思う』
穏やかだったけれど、とてもしっかりとした口調だ。センリ様がそう言い切ったのが少し、嬉しかった。オレと同じだった。
『いつか絶対、みんなが本当の意味で分かり合える日が来るって、私はそう信じてる』
「ならオレは……オレはきっと誰よりも強くなって、それでこの忍の世界を変えてみせます」
決めたことだ。センリ様が平和をつくれないというのなら、オレがそれをつくってみせる。それを信じているというのなら、オレが現実にしてみせる。
センリ様はにっこりと笑ってオレの髪をやさしく撫でただけだったけれど、何故かそれが心地よかった。
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