- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-うちはイタチの独白-



センリ様は不思議な人だった。



物心ついた時からオレの側……というより母の側にいて、たまに母と食事を共にしたりしていた。

三歳頃からの記憶しかないけれど、センリ様の第一印象は“よく笑う綺麗な人”だった。オレの記憶にあるセンリ様は、いつでも優しくて綺麗な笑みを浮かべていた。

それから次に“透き通った人”だと思った。子どものオレが見ても分かるくらい美しい女の人だったけれど、この人は心が綺麗なんだって、オレはすぐに分かった。


明るくていつでも微笑んでいて、それに、家族でもないのにオレの頭を撫でる。その手の平のあたたかな感触は母さんとも父さんとも違う、すごく不思議で特別な温もりだった。


相手が誰であろうと優しくできて思いやりがあって、それなのにすごく強い。そう父が言っていた。

それを聞いた時は驚いたけれど、あの火影様でも「センリ様」と呼んでることを考えると、間違いではないのかもしれない。

その後父から「センリ様はもう二百年近く生きているんだ」と聞いて、少し納得した。センリ様は母より少し子どもっぽく見える時もあるけれど、本当はそんなことはないってオレには分かる。



センリ様はオレの疑問をバカにすることなく、それでいて何にでも答えてくれた。

誰にも聞けない、父にも言えないような小さな疑問から、どんな悩みにだって必ず答えをくれた。センリ様からしたら六歳のオレの疑問なんてどうにも思わないようなちっぽけなことなのに。それなのにいつだってオレの声を聞いてくれて、必ず言葉を返してくれた。オレはそれが、すごく嬉しかった。



――――――――――――――

生まれる。

死ぬ。


世界はこの繰り返しだ。


弟が産まれた時と、あの地獄絵図とを頭の中でくらべて、自分自身の中でもそれを繰り返す。


生まれる………死ぬ……生まれる……死ぬ。


でもその繰り返しの意味が分からなくなって、センリ様に訪ねた事があった。


「人はどうして生まれると死ぬを繰り返すのですか?」


そうするとセンリ様は、オレを見て微笑む。春の木漏れ日のような、やわらかな笑顔だ。センリ様は『また面白い事を考えてるんだね!』と言ってオレの頭をポン、と撫でた。



『でも、それを考えるのはとても大切な事だよね』


センリ様は、オレの質問を本当に大事にしているみたいに、丁寧に言葉を紡いでいた。それからセンリ様は微笑んだまま、頭上に広がる空を見上げた。


『命は、“輪”だと思う』

「輪?ですか?」

『そう、輪っか!』


オレはセンリ様の言葉が聞きたくて、つい前のめりになってしまった。センリ様はオレに視線を戻して、手の指で丸い輪をつくった。



「それは、どういう事ですか?」

『自然の世界が、分かりやすいかな――。例えば、イモムシが葉っぱを食べるでしょ?それでそのイモムシをカエルが食べる。そしたら今度はそのカエルを、ヘビが食べる。そうすると、そのヘビを?』

「……タカが食べる?」

『正解!素晴らしい!その通りだね、タカはヘビが好きだからね。タカが食べる』

「でもタカは、誰にも食べられません。タカには天敵が、いませんから」


そう言うと、センリ様は楽しそうにふふふ、と笑った。


『イタチは物知りだね!そうだね。確かにタカは強いからね。でもタカも寿命があるから、時が来れば死んでしまう』

「…?」


センリ様はオレたちが座っている地面をトン、と指さした。


『そうなればタカの死骸は土に還る。そしてその土からは葉っぱが生える』


ようやくセンリ様の言っている“輪”の意味が分かって、オレは頷いた。頭の中の疑問にまたひとつ、センリ様が答えをくれた。



「そしてまた同じ事を繰り返すのですね?」

『そういう事!命にはみんな理由がある。人間だって同じだよ。生まれる事と死ぬ事には、きっと何か意味があると思う』

「その“意味”って、何ですか?」


センリ様は今度は少し考えるように視線を斜め上に向けた。金色の瞳が、太陽の光で輝いていた。



『うーん、難しいなあ。それは人それぞれだからなあ……でも、ひとつ言えるのは…“生まれる”事と“死ぬ”事は重要な事だけどね、それよりももっと大事な事があると思うんだ』

「それって何ですか?」

『それはね、“生きる”事』

「生きる、こと……」

『そう。確かに、生まれる事も死ぬ事も重要な事だけど、その間をどう生きるのかは、もっともっと大切な事だよ』

「では生きるとは何ですか?」


そう問い掛けるとセンリ様はいつもの穏やかな表情になって、またオレの頭に手を置いた。やわらかくて優しい手だった。


『それも人それぞれ、かな』

「センリ様は、なぜ生きるのですか?」

『そうだなあ。理由はたくさんあるよ』

「…何ですか?」

『ん〜、それはイタチが、なんで自分が生きてるのかの答えを見つけたら、教えようかな!その時は一緒に答えを言い合おうよ。せーの、でさ!』

「分かりました。頑張って答えを見つけます」



センリ様と話をする時間は楽しくて、とても有意義だった。

オレの目を見てどんな声も聞き逃さずにいてくれて、色々なものの見方を教えてくれて、たくさんの言葉を返してくれる。アカデミーですでに知っている事を学んでいるより、ずっとずっと、確実な時間だった。
[ 120/169 ]

[← ] [ →]

back