木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-不可解な存在-
ふと、オビトの視線に気付いてセンリは隣を見る。
今はもうセンリより十センチほど背が高くなっていたオビトは、口元を押さえながらニヤニヤと笑っている。センリは苦笑いを浮かべた。少し頬が熱くなっていた。
「マダラって…結構大胆だな」
『あ、あはは……うん…そうなんだよね…』
あれだけ人前では、と話しているのに全く聞いていないマダラに言いたい事もあったが、センリは軽くため息を吐くだけに留めた。その本人が目の前にいないとなれば羞恥心にも行き場がない。
まだマダラの唇の感覚が残っていて、センリはつい額を手のひらで押さえる。小さな愛情表現だとしても、二人きりでない時はなぜかとても恥ずかしい。
里に向かって歩き出してもまだオビトは楽しそうに笑っていた。
「それにしてもマダラって、ホントにセンリの事が好きなんだな」
藪から棒にオビトが言うのでセンリは『へ?』と間抜けな声を出した。オビトを見ると、どこか嬉しそうな表情だ。
『そ、そうかな?』
「そうだよ!だってあんなに優しそうに笑ってるマダラなんて、見た事ねーもん。オレになんて鼻で笑った事しかないぜ」
センリはふと考えて、『確かにそうかもしれない』と笑った。
「だろ?あんな笑顔向けるの、センリにだけだぜ。怖いくらいだ…」
オビトは本当に信じられないというふうに首を振るので、それが少し可笑しくてセンリはくすくす笑った。
『オビトだって、そうじゃない?』
「え?何がだ?」
『リンの前ではオビトも、嬉しそうな顔してるよ』
オビトはそれを聞くと突然焦ったように顔を背けた。いざ自分が言われると恥ずかしいらしい。
「そ、それは…まあ――」
オビトは口篭ったが、センリは楽しそうにふふっと笑った。リンと一緒にいる時のオビトの瞳は本当に楽しげに光り輝いているのを知っていたセンリは、それがとても嬉しかった。
『分かってるよ。リンの為にも、かっこよくならなきゃね!』
「お、おう!当たり前だ!ま、オレは今でも十分カッコイイかもしれねーけどな」
センリがトンッと背中を叩くと、オビトは元気を取り戻して拳を自身の前に突き出した。
「次にマダラが帰ってきたら絶対に弟子にしてもらって、強くなって、リンにも認めてもらって……そんで火影にもなってやるんだ」
『そうだね、オビトなら大丈夫だ!』
「おう!オレは、うちはオビトだからな!」
『その意気だよ!』
オビトは幼い頃から、自分がうちは一族の人間だという事に、前向きな意味で拘っていた。オビトにとって、それは誇りなのだろうと、センリは微笑みながら思っていた。
『でも――オビトがマダラから、弟子として色々教わりたいって思ってたとは……ちょっと意外だな』
「ん?いや――まあ、マダラは嫌な奴だし、容赦もねーし、捻くれてるけどよ――絶対間違った事は言わねェんだ」
後頭部で手を組みながらオビトが言った。オビトの瞳には曇りがなく、センリはそれを見てやはり嬉しくなっていた。非常に判りにくいマダラの愛情に、きっとオビトは気付いているのだろう。
「そりゃあ優しい方がいいけどさ……でもオレには、現実をちゃんと突きつけてくれるような――厳しい言葉だとしても嘘をつかない、歯に衣着せないような奴の方が合ってるだろう、って、」
オビトがきちんと自分自身と向き合えて凄いと、センリは言おうとしたが、オビトがすぐに言葉を続けた。
「――って、カカシに言われてさ」
『なるほど!』
オビトの言葉を聞いてセンリは朗らかに笑った。確かにカカシならばそんな事を言いそうだ。
「マダラは意地悪な奴だけど、すげェ強いし、色んな事を知ってるだろ?あのミナト先生だって…マダラは凄い忍だって言ってたし。師匠にするならマダラしかいねぇって、思ってさ」
『そうだね。マダラは特にうちはの子には厳しいけど…でもオビトはきっと強くなれると思うよ』
「だろ?オレは……オレは、やっと大切なものに気付けたんだ。今度こそ、それを守れるような…強い忍になりたい」
ゴーグルを付けなくなったオビトは、何故かそれだけで少し大人になったように見えた。オビトの眼に宿る
強い意志は、きっとミナトから受け継いだものなのだろう。センリは、朝日に照らされたオビトの横顔を見て、自分自身も奮い立たせた。
「その為にはまず上忍になんねーとな……あのカカシに目に物見せてやる為にも…」
真剣な表情になったかと思えば、今度はオビトは何やら考え込んでブツブツ呟いた。
オビトにやらなければならない事が沢山あるように、センリにも多くのやるべき事があった。
マダラを信じて待ち、自分はこの里を守る。
使命にも似た決意が光のように心に広がり、センリは一人で小さく頷いた。
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