木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-不可解な存在-
喜びを隠しきれないオビトから一度目を離して、マダラは再びセンリを見た。
『あ り が と う』
センリの口だけがそう動いたのが分かり、マダラはふっと小さく微笑んだ。センリのその嬉しげな表情が見られるのなら、多少のらしくない行為は多目に見てやろうかと、マダラは自分自身を納得させた。
「(弟子、か……)」
その相手がオビトだということに対して少し億劫だという気持ちもマダラの中にはあったが、オビト自身も師の死を目の当たりにし、思う所があるのだろうという事もまた、分かっていた。明るく振舞ってはいるが、先程の言葉を聞く限り、自分の無力さに歯痒さも感じているのだろう。
まだまだ幼さを残すオビトの様子を横目で見下ろしながら、マダラは妥協のため息を吐いた。
そして、次に自分が帰ってくる時までの事を頼む、とセンリに言葉無き視線を向けると、その眼差しを受け取ったセンリが深く頷いた。
『ホントに、気を付けてね』
嬉しくて一人ガッツポーズをしていたオビトは、センリの声で我に返った。
「なるべく早く帰ってきてくれよ!」
「…お前は一先ず、目上の人間に対する言葉遣いを学んだ方が良いようだな」
『ふふ、そんな事は今さらだよ!オビトらしくていいじゃない。オビトはちゃんとマダラが強いって、知ってるもんね』
「そうだそうだ」と合いの手を入れているオビトの様子を見てマダラは呆れたが、言い返す事はなかった。オビトは無視してセンリに向き直る。
「帰る時には必ず連絡する。それまで、無理はするなよ」
『うん、大丈夫だよ。私もいっぱい手紙送るから!また交換日記しようね!』
センリはマダラを安心させるように笑顔を浮かべた。子どものような事を言うセンリを見てマダラは面白そうに目を細めた。
センリの金色の瞳がキラッと輝いた事で朝日がほとんど顔を出してしまったと気付き、マダラは地面に置いてあった荷物を背負う。
「……」
マダラは、微笑んでいるセンリに近付いて、頭の後ろに手をかけ、そっと引き寄せた。隣でオビトがハッと息を呑む音が聞こえたのと同時に、センリの額に唇の感覚があり、鼻の先をマダラの服が掠めた。ふわり、とマダラの匂いがした。
「行ってくる」
センリの驚いた表情を見下ろし、満足そうに微笑んでマダラは今度こそ背を向けた。センリは目を丸くさせながら数秒間固まっていた。
『あ、い――いってらっしゃい……』
センリが声を出したのはマダラが正門を出てからだったのでその声が届いたかはわからないが、マダラは一度だけ振り向いた。マダラの唇が、ほんの僅かに弧を描いたように見えた。
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