- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-不可解な存在-



『オビト?』


二人の元に駆け寄ってきたのはオビトで、全力疾走をして来たのか呼吸を荒らげている。両手を膝に当ててハアハアと息を整えているオビトを見てマダラは眉をひそめた。


「こんな所まで着いてきて、一体何の用だ?」


理由までは知らなくとも、マダラが里を発つという情報をどこからか嗅ぎ付けてきたのだろう。オビトは息を整えると、マダラを見上げた。少し見ない内にまた身長が伸びていた。


「オレも連れて行ってくれ」


唐突な言葉にセンリは少し驚き、マダラは僅かに眉を動かした。


「何故だ?」

「オレ…今よりもっと強くなりたいんだ。アンタがうちはの中で一番強いって事は、知ってる。アンタはいつもオレを皮肉ってばかりだけど…でも、スゲェ強い忍だって事も、知ってる。―――だからマダラ、アンタの弟子にしてくれ」


唐突な言葉だったが、オビトの瞳は真剣だった。センリは、オビトがこんなにもマダラに対して真摯に向き合う様子を初めて目にした。いつもの調子の良い口調と笑い顔は、全く見当たらない。

マダラはしばらく、その真意を探るようにオビトの顔を見つめた後、静かに問い掛けた。



「お前は何故、強くなりたい?」


突然の質問にオビトは少し考えたが、マダラの黒い瞳をじっと見返した。


「大切な人を、守りたいんだ。オレがガキだったから…力が無かったから、ミナト先生を助けられなかった。もっと強かったら里を守れたはずだ…。何も出来ないのは嫌なんだ。これ以上、自分の大切な人をなくしたくない。その為に……その為にオレは、強くなりたいんだ!」

『オビト…』


センリが見つめるオビトの横顔は決意に満ちていた。少し前の彼とは違う、強い意志を備えた表情だった。

マダラは品定めするようにまじまじとオビトを見ていたが、その後ため息を吐いた。


「……他を当たれ」

「!」


突き放すような口調にオビトは食ってかかった。


「な、何でだよ!オレは何としてでも強くならなきゃいけねーんだ!その為に力を…――」

「強くなったとしても、」


オビトの言葉を遮る様にマダラが言った。


「例え強くなったとしても、誰かを絶対に守りきる事が出来るとは限らない。強くなったとしてもまた、大切な人間をなくすかもしれない。強い者が後悔しないという保証は何処にもない」


『(マダラ……)』


オビトを突き放しているようにも見えるが、センリにはその声がどこか優しげにも思えた。


「でも――!」

「お前はまだこの里でやるべき事がある。里で修業を積んで、任務をこなし、その中でもう一度よく考えてみる事だ」

「…っ」


オビトは口篭り、地面に目を向けた。


「急ぎ過ぎていると色々なものを見失う。“今のお前”では、一緒に連れては行けん」


センリは少し微笑んでマダラを見上げた。遅れてオビトも「えっ」という声と共に顔を上げた。


「一筋縄ではいかぬ任務だ…。少し経ったら、再び里に戻ってくる。その時、本当にお前の意志が固まったのなら、その時は一緒に連れて行ってやる」

「ほ、ホントか!?」

「上忍にでもなれていたら、考えてやらんでもない」


オビトはキラキラと目を輝かせ、マダラはそれを見下ろして小さく笑った。本当なら子どもの世話など御免だが、歳を重ねたせいか、その馬鹿みたいな瞳の輝きを見る事が昔ほど嫌に思わなくなっていた。そんな自分の感情に気付いて、マダラは自嘲した。


「オレの気持ちは変わらねェ。マダラがまた帰ってきた時にそれを証明してみせる。約束だぞ!」

「俺は嘘はつかん。まあ…それまで、せいぜい鍛錬を積む事だな」



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