木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-不可解な存在-



マダラが長期任務で里を出る事が決まってから数日後。夕焼けが里内を照らす中、ある神社の前でダンゾウとマダラは向き合っていた。

“南賀ノ神社”と書かれた文字は少し錆びれ、鳥居は煤けている。誰が賽銭を管理しているのかさえ分からないような砂だらけの賽銭箱の前に立つダンゾウをマダラは睨み付けるように見ていた。


「こんな所に呼び出してまでワシに伝えたい事とは一体何なのですか?」


先に口を開いたのはダンゾウで、嗄れたその声には僅かに警戒心が含まれていた。


「ダンゾウよ。貴様、有りもしない事実を吹聴しているようだな」

「はて……ワシには何の心当たりもありませんが…」

「見え透いた嘘をつくな」


きっぱりとしたマダラの言葉にダンゾウは一瞬押し黙る。


「九尾を招いたのはうちはの人間だと…そう語っているそうだな?」


ダンゾウの瞳が薄く開かれマダラをじっと見つめた。しかしそれ程驚きはせず、観念したように小さく息を吐いた。


「九尾程の強大な力をコントロール出来る人間など、あなた達一族の他に考えられない、と……そう言っただけですよ」

「貴様…自分が何を言っているか、分かっているのか?カガミやイズナの生き様を間近で見て来て…貴様は一体何を学んだ?うちはの者が里に反逆行為のような事をすると…本気でそう思っているのか?」


感情を押し殺し、抑えた声だったが、マダラの体からは殺気がダダ漏れだった。しかしダンゾウは動揺を見せずに、普段の仏頂面を装っていた。


「ワシは可能性を言っておるだけです……うちは一族がどのように里に尽くしてきたかはこの際置いておきましょう−−あなた達の強力な瞳力があれば、里を壊滅に追い込む事など造作もないという事は、事実……―――」


遠回しな言葉だったが、その言葉の意を理解したマダラはピクリと眉を動かし、鋭くダンゾウを睨む。



「図に乗るなよ、小僧……!」



黒い瞳が夕日よりも赤く染まり、放たれた殺気で辺りの地面にピシィッと不吉な音を立てて亀裂が入る。自身への危険を察知したのか、付近の木々からカラス達がカァカァと鳴きながら飛び去って行った。禍々しい威圧感だ。

流石にダンゾウは一歩後ずさり、杖を強く握り締めた。恐ろしい空気だった。頬に痛みを感じる程のチャクラだ。殺意さえ感じる。
ここ何年かは感じなかった恐怖を感じ、ダンゾウは息を呑むが、マダラからそれ以上の攻撃はなかった。



「下らぬ妄想をするのは勝手だがな…妙な真似をしようと思わん事だ」


―――――死神。
マダラが他里の忍達からそう恐れられている理由を、ダンゾウも瞬時に理解した。

勝てる理由など一切見つからない。
幻術をかけられているわけでもないのに体が硬直し、足が震えた。


「お前が里で何をしようが知った事ではないが……この俺の存在を、忘れるなよ」


小さく、低い声だったがダンゾウの耳には恐ろしい程にしっかりと聞こえた。心臓がこれでもかという程早く脈打っていた。

マダラの瞳の中の形が変わり、独特の形状を創り出す。

最後に脅すようにダンゾウを睨み付けた後、マダラはその場から姿を消した。途端に酸素が肺に入り込み、ダンゾウは大きく深呼吸をした。自身の手を見ると、ぶるぶると震えている。



「(万華鏡写輪眼………あの眼さえあれば…)」


赤く染まったマダラの瞳を思い出し、その禍々しいチャクラにダンゾウは腕を摩る。

夕日の光がその瞳と重なって、ダンゾウは唇をぐっと噛み締めた。
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