- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-不可解な存在-



それからセンリが目を覚ましたのは二日後……九尾襲来事件から五日後の昼だった。

怠さと眠気から完全にセンリが抜け出した時には、次の火影はヒルゼンに再決定していた。センリには異論はなかった。


ミナトの次の世代に、という意見もあったがそうなると未成年になってしまい、流石に経験値が足りないだろうという反対意見が多数あったのだ。自来也やフガクは相変わらず受容しない意思を示しているので、候補者が出るまでの繋ぎとして、再びヒルゼンが火影の座につく事に決まった。

ヒルゼンがこれまでに成し遂げてきた功績や、人を育てる力は、今の里の中ではマダラにとって一番信用出来るものではあった。

柱間や扉間の意志を継ぎ、里を第一に考え人々に愛情を持って接する事の出来るヒルゼン以外には、火影を任せられる人材はまだ、マダラの頭の中には思い浮かばなかった。


ヒルゼンにしてもどれもが完璧という訳ではないが、体の老いや甘さなどに関しては自分達が補っていけば良いとマダラは考えていた。



「(まさか、あのような事になるとは……)」



それから九尾襲来事件について、自分がその時里内にいなかった事が悔やまれた。万華鏡写輪眼があれば九尾を止められたはずだ。自分がいればミナトもクシナも死なずに済んだだろう。里にあれ程の被害も及ばなかったかもしれない。

つい数週間前に見た、生まれてくる命を心待ちにしていたミナトとクシナの姿が思い浮かび、マダラは墓の前でぐっと拳を握りしめた。

センリが自分の不甲斐なさを悔やんでいる感情が、理解出来た。過ぎ去った過去も過ちも、もうどうにもならないというのに、やはり後悔は重い淀みとなって心の中に燻っている気がした。

やっと幸せを掴み取り、これから大切なものと共に未来に歩んで行くはずだった。

マダラはセンリ程他者への愛情に溢れている訳ではなかったが、それでもミナトとクシナが敬愛の視線を向けてきている事は、マダラ自身も自覚していた。「二人のようになりたい」と憧れの眼差しを向けるクシナを思い出してマダラは一人、沈痛な面持ちをした。



「(防げた死だったはずだ。俺が里内にいれば……)」



火の意志を受け継ぐべき若者が死ぬ事は、非常に悔やまれる。意志を次の世代へと繋げていく事の重要さを心から理解していたマダラは、哀しみの吐息を吐いた。


「(俺も随分と未練がましくなったものだな……何十年生きても、この臍を噛む思いを断ち切る事は出来んのか……)」


罪悪感と悔しさは今回の件で溢れ出し、死んだ者達の墓を見る度に胸をついた。


「(だが…センリも……)」


九尾襲来事件の日は満月の夜だった。その事により力を使えずにいたセンリも同じように悔しい思いをしているだろう事はマダラには手に取るように分かる。

あれだけ二人と懇意にしていたセンリは、さぞ悲しいことだろう。



「(ただ力を求めて強くなったとしても、後悔はするもの、か……センリがそんなような事を言っていた気がするな……。だが、あいつももう、悲しみからは立ち上がり、前を向いているはずだ―――)」


体力を回復し、目覚めた後のセンリからは後悔の欠片もみられない。亡くなった者達の意思を汲み取り、悔しさと悲しみを糧にして前に進もうと努力していた。これまでと同じだった。


何十年もセンリと気持ちを共有してきたマダラの選ぶ道には、“後戻りをする”という選択肢はなかった。



それに今回の事件についてどうしてもセンリに伝えなければならない事もあった。


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