木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-不可解な存在-
次にセンリが目を覚ました時に真っ先に見えたのは、マダラの後ろ姿だった。見慣れた自宅のベッドで、重い瞼をどうにか開けると、辺りは薄暗く夜になりかけている。
身体が重く、少し頭痛がした。センリは目を擦りながら、一体どのくらい寝てしまったのか考えた。
「起きたか」
ゆっくりと瞬きをしているセンリに気付いて、窓を閉めていたマダラがベッドに近付いて腰掛ける。センリは気怠い体に何とか力を入れて体を起こした。
「三日三晩寝ずにいたのだろう。無理をするな。痛む所はないか?」
マダラはその体を支えるとセンリは頭を横に振り、掠れた声で『だいじょうぶ』と言葉を返す。
「……話は全てヒルゼンから聞いた」
静かな声でマダラが言うと、安堵と疲れが一度にセンリを襲い、途端に目頭が熱くなる。それを何とか押さえているセンリに気付いてマダラはそっと頭を引き寄せた。いつもの温度と匂いと大きな手のひらに突然安心感を覚えて、センリは滴り落ちそうになる涙を寸でのところで押し止める。
マダラの服の肩付近が涙で濡れてしまった気がしたが、しばらくの間そうしていると不思議とセンリの気持ちが落ち着いた。
『(私のせいだ………)』
マダラの指が細い髪を解いていく心地の良い感覚に身を委ねながら、センリの脳裏には二人の最期の姿が過ぎっていた。
「お前のせいではない」
『………!』
センリは一瞬、心の中で思っていた事を口に出してしまったかと思ったが、そうではないようだった。
マダラがセンリの後悔の念を、意識しなくとも察知していたようだ。まるで自身の命の片割れのようだった。この存在なくしては、生きてはいけないだろう。
その感情を感じる程に、九喇嘛を止められずミナトとクシナを救えなかったという事実が鋭い針となってセンリの心臓に突き刺さっていく。
「あいつらの子は全く問題ない。どこにも異常はなく、封印の方も大丈夫だ。俺が確認して来た。暗部の者が着いてはいるが…病院で眠っている。怪我人の病床も足りている。お前が直したお陰で街並みの殆どは復元されているからな…それ以外の箇所の修復作業の件も進めてある。問題はない」
マダラには、センリが何を考えているのか、何を思い何を心配しているのか、手に取るように分かっていたので、センリが何かを問いかける前に全ての答えを用意していた。センリが自分自身の事は頭に無く、とにかく他者の事だけを考えている事くらい明瞭だ。
思う事は色々とあったが、まだ疲れているような様子のセンリを眠らせる事が最優先だとマダラは結論を出した。
「それから、すぐに次の火影を決めなければならんと…ヒルゼンが俺達に意見を求めていた」
『つぎの、火影……』
現火影が死した後は他里にその事実が回る前に、すぐにでも次の火影を決めなければならないという事くらいセンリにも分かってはいたが、久方ぶりに三晩も寝ずに治癒の方のチャクラを使い続けて体力を消耗していたせいか、頭が上手く回らない。
「これから次の火影を決める会議に行かねばならん」
『私も、―――』
センリがベッドに手をついて掛け布団から出ようとしたが、マダラは優しくそれを制止した。
「お前は寝ていろ」
『でも、』
「お前の思っている事くらい大体分かる…。俺一人が参加すれば十分だ。いいから休んでいろ。少し調べねばならん事もある…――ほら、布団の中に戻れ」
マダラの声音は優しくいつもよりも穏やかだったが、拒否権を認めないという命令口調でもあった。
その瞳に込められた自分への思いだけは痛い程に感じていたセンリは、じっと黒い瞳を見つめた後、布団から出かかった足を中に戻す。
『ありがとう……。帰ってきたばっかなのに、ごめんね』
「別に問題はない。お前の体力を回復するのが最優先だ。……センリ、お前はよくやった。とにかく今は眠れ。それが今、お前のすべき事だ」
よくやった。
その言葉を聞いて再び目に集中する熱さをセンリは振り払う。マダラがそっと肩を押し、センリは体をベッドに預けた。
「さあ、目を閉じろ……後の事は俺に任せておけ。何も、心配はいらない」
マダラの手のひらが目の上に降りてきて、その指示に従って瞳を閉じると、額の上に温かな体温を感じた。優しい温もりが無性に眠気を誘って、センリはすぐに深い暗闇に落ちていった。
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