- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-不可解な存在-



十月十日の夜。

九尾襲来は里が創始されて以来、初めて里内に甚大な被害をもたらした事件となった。



産まれたばかりのミナトとクシナの子、ナルトは暗部の監視付きですぐに病院に送られた。産まれてすぐに九尾の人柱力となったナルトだったが体にも異変は見られず、隔離されているという事以外は他の赤子と何ら変わりはない。


センリは突如大事な存在をなくした事になったが、その日の夜が明けるという時にはもう、気持ちを切り替えねばならなかった。無惨な状態にある里を一刻も早く整えなければならない。里を守ったミナトの意思を、無駄にする訳にはいかなかった。


満月の夜が終わり朝日が顔を出すと共に、センリは他の事はヒルゼンに任せ、すぐに負傷者の治療を始めた。

里の医療忍者も加わっていたが、センリはそこから丸二日間、寝ずに手当てをし続けた。その努力の甲斐もあり、重傷者を含めた怪我人はほとんど治す事が出来た。

しかしそれでも突然里を襲来した九喇嘛の攻撃により、亡くなった者も少なくはなかった。クシナの出産に立ち会っていた暗部と猿飛ビワコも、今回殉死した者の一部の忍だった。


今回の事で亡くなった忍達の葬儀が行われるまで混乱は収まらなかったが、たった二年前に四代目火影に就任したばかりのミナトが里を守って殉職したという衝撃が更に人々の不安感を煽った。



『(ミナト…クシナ……)』


これまで幾度も忍達の葬儀に参加して来ていたセンリだったが、今回程将来を期待されていた者の死は初めてなのではないかと思った。

神無毘橋の任務以来その身を隠していたオビトの涙も、ミナトの葬儀では地面を濡らす程に滴り落ちていた。


様々な事を教わり、共に戦乱の中を駆け抜けてきた憧れの師の訃報は、弟子達三人の心に酷く、重たい悲しみを与えた。普段そこまで感情を露わにする事の無いカカシでさえ、この時ばかりは右目を潤ませ、鼻を啜っていた。


涙を見せる者もいる中、センリは涙を流さずに黙祷を捧げた。ただ、悔しかった。二人を守れなかった事、九喇嘛に里を襲わせてしまった事、満月の日だった事、無力だった事−−状況の全てが悔しくて、センリは血が出るのではないかというくらい強く、唇を噛み締めていた。行き場を失った悲しみが、頭から心の奥底まで染み込んで、どうにもならなかった。


『(あんなにナルトの誕生を心待ちにしてたのに…息子の成長を見る事が出来ず…志半ばで命を落とした二人の方が、辛いに決まってる…)』



残される方と残す方、どちらがより悲しいのかはセンリには分かっていた。しかし悲しみだけを感じてはいられない。起きてしまった事は過ぎてしまえばもう過去の出来事でしかないのだ。



『(弱気になるな…!みんなの思いを、無駄にするわけには、いかない……必ず…。やらなきゃ。私は、私の、するべき事を…−−)』



センリは無意識に両手を強く握りしめ、強い瞳で黒い額縁の中の忍達を見つめた。


[ 104/169 ]

[← ] [ →]

back