木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-九尾襲来-
やっとの事でセンリが九喇嘛の元に辿り着くと、すぐにヒルゼン達の姿が見えそれに駆け寄る。
しかし何故かヒルゼンらは為す術もないといった様子で立ち尽くしていた。九喇嘛を止める様子も、攻撃する様子も全くない。それどころか呆気に取られて呆然としているようにも見える。
『一体、どう――どうなってるの!?』
センリが息も絶え絶えヒルゼンに問い掛け、皆が見ている方向を見る。
『……!?』
センリの目に移ったのは衝撃的な光景だった。
九喇嘛の橙色の体には鎖が絡みつき、その巨大な手が何かを狙うように前に出されている。
そしてミナトとクシナの体には九喇嘛の爪が深々と突き刺さり、二人の前には…――。
『あれは…!』
「ミナトは屍鬼封尽で自分の子を人柱力にして、九尾を封印するつもりなのです!」
二人が九喇嘛の鋭い爪から何を守っているのかなど、すぐに分かった。しかしセンリは、二人が何故そんな事をしようとしているのかが、全くわからなかった。ミナトは万華鏡写輪眼が尾獣に通用する事を知っているはずだ。すぐ側にフガクがいたというのに、何故自分の命を犠牲にしてまで生まれたばかりの自分自身の子どもに九喇嘛を封印しようとしているのか――。
『待って――!ミナト!クシナ!!』
センリは大声で二人に向かって叫ぶが、その声は二人には届かず、結界のせいでそこから全く手が出せない。
ミナトとクシナは産まれたばかりであろう息子を九喇嘛から庇い、二人の視線は赤子に向けられ、そしてその唇は僅かに動いているように見えた。
二人は今から自分達が死ぬと分かっていて、最初で最期の言葉を息子に語り掛けていたのだ。
「っ……」
ここまで来たのに何も出来ない事にフガクは強く唇を噛み締めていた。しかしそれはその場にいた全員がそうだった。
『クシナ――!!』
二人が何故息子にクラマを封印しているのか、自分達が死ぬと分かっていて何故そうしているのか、センリにもヒルゼンにも、誰にも分からなかった。
ただひとつ、ミナトは四代目火影として、そしてクシナは生まれた子どもの母親として、その責任を全うしようとしている事だけは揺らぎようのない事実に思えた。
九喇嘛がクシナの身体の封印を解いて外に出たとなれば、クシナ自身に残された時間はほんの僅かだ。それと同じく、屍鬼封尽を行使したミナトの命も――。
もう全てが遅いと分かっていてもセンリは、その名を呼ばずにはいられなかった。
『ミナト………!クシナッ…!』
九喇嘛が何とかして鎖から逃れようと力んでいるのが分かる。クシナの瞳から大量の涙が溢れ、ミナトの表情がふっ、と柔らかくなった。
次の瞬間、九喇嘛が大きく咆哮し苦しむような仕草を見せた。かと思うとその姿が、スヤスヤと眠る赤子に吸い込まれるように消えた。
二人に突き刺さっていた九喇嘛の爪も消え、ミナトとクシナは同時に倒れ込んだ。
『……!』
二人が地面に倒れるのと同じ瞬間に目の前の結界も消えて、センリはすぐに駆け寄る。
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