木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-九尾襲来-
九喇嘛が暴れた後の状況は更に酷いものだった。家屋のほとんどが踏み潰され、原型を留めている家がひとつもない。
周囲から聞こえる泣き叫ぶ声にセンリは唇を噛み締めながら九喇嘛の元に急ぐ。
ヒルゼン達は何とか九喇嘛を里の外に追いやり、動きを止めようと奮闘していた。
『ヒルゼン!!』
ヒルゼンは下から大声で叫ぶセンリに気付いて一旦九喇嘛の前から退く。
『フガクを連れてきた!』
「ワシも今暗部の忍に呼びに行かせたところです…!」
ヒルゼンとフガクは頷き合い、尾を揺らしている九喇嘛を見上げる。
「!」
「!?」
その瞬間突然頭上から巨大な蝦蟇が降ってきて、九喇嘛の巨体の上に飛び乗った。ギャアアァという、物凄い鳴き声が木霊する。
『あれは……妙木山の!』
「ミナトが口寄せしたのか!」
自来也は再び旅に出ていて里に不在なので、蝦蟇を口寄せ出来るのはミナトだけだ。
大きな図体の頭の上に、ミナトの姿が小さく見えた。蝦蟇と九喇嘛が揉み合うが、いくら巨大とはいえ口寄せ動物では尾獣に勝てるはずが無い。
我を忘れた九喇嘛が蝦蟇に押し潰されながらも口を開き、再度尾獣玉を作り上げる。フガクが九喇嘛の前に飛び出ようとしたがヒルゼンの腕がそれを止める。
「今は駄目じゃ!」
「…っ…」
あれだけの高密度のチャクラの塊など喰らえば、人の体など刹那の内に消滅する。
しかしセンリはその攻撃の射程距離に突然飛び出した。
「センリ様!!」
ヒルゼンが叫ぶがセンリは止まらない。何としても攻撃を繰り出させるわけにはいかなかった。九喇嘛の瞳に意思がない事は分かっていたが、一か八かセンリは大声で叫ぶ。
『九喇嘛!!』
高い叫び声が木霊した瞬間、何かにハッと気付いたように九喇嘛が動きを止め、逆再生したかのように黒いチャクラの集結体が小さくなって消えた。明らかにセンリの声に反応したように見えたが、九喇嘛はすぐに唸り声を上げながら暴れ出した。
『…っ…!』
周囲の森の木の枝が九喇嘛の咆哮で吹き飛ばされ、センリの頬を掠めて血と共に飛び去っていく。
「…!」
皆が吹き飛ばされないよう体勢を保った時、突如九喇嘛の姿が蝦蟇の下から消えた。
「九尾ごと飛んだのか!?」
ヒルゼンが状況を理解すると同時に、遠くの森から九喇嘛の鳴き声が聞こえ、尾獣玉が爆発したと思われる光が見え、しばらくしてから大きな爆音が聞こえた。
「あっちか!」
光が見えた地点を確認してヒルゼンが走り出し数人の忍とフガクもそれを追う。
『ヒルゼン、ちょっと先に行って。すぐに追いつく』
「分かりました!」
チャクラを使えないセンリは全力で走っても徐々に皆から引き離されて行く。ヒルゼンは頷いてセンリの前から消えて行った。
『(早く…早く行かなきゃ…!)』
センリも呼吸が追いつかない程に全力でクラマの所に向かう。 呼吸に、心臓の動きがまるでついていかず、センリは一度立ち止まって荒い息をなんとか整えた。酷い耳鳴りが、まるで頭の中全体に木霊しているようだった。
『っ…ハアッ……』
一度大きく深呼吸をすると、吐き気がした。腹の底から湧き上がる得体の知れない何かに、センリは無理矢理蓋をした。
『(クシナ……――お願いだから、無事でいて……)』
クシナが心配だった。あのミナトが側にいながら、一体なぜ九喇嘛の封印が解けてしまったのか。クシナは無事なのか。里の人々は全員避難出来ただろうか――。様々な事が駆け巡り、頭の中がぐちゃぐちゃだ。センリは頭を振るい、暗い森の方へ視線をやった。
『もう少し…――』
走らなければならない。早く九喇嘛の元へ行かなければならない。
その思いだけでセンリは己の身体を動かしていた。
[ 100/169 ][← ] [ →]
back